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第一話 かわいそうにね、芽衣子ちゃん。
私は水戸芽衣子。二十五歳。埼玉県出身。東京都在住。蟹座。O型。OL。使ってるシャンプーはボタニストの黒。
私が小学三年生だったころ、はなちゃんという大人しい同級生がいた。ある日、はなちゃんはかわいらしいサクランボの髪留めをして学校に来ていた。それを見ていたクラスの中心人物であるアヤミちゃんと、アヤミちゃんのことが好きだったタクヤくんが、はなちゃんの髪留めを盗んだ。その現場は、私しか見ていなかった。
そのことを母に相談すると、母は
「はなちゃんを助けてあげなさい。あなたならできるわ。」
とほほ笑んだ。
次の日私は、髪留めを返すよう、二人のところへ赴いた。
私は水戸芽衣子。二十五歳。今は仕事中だ。
*
時計を見ると、十二時二十五分。この時間になると、そろそろ豊島部長の、怒鳴り声が聞こえる。私は仕事に集中しているふりをして、耳をそばだてる。
「安住さん、まだ終わってないわけ?」
「はい、すみません……。」
主にパソコンと人しかないこのオフィスの、オアシス的な存在であるコーヒーメーカーと、その横にある申し訳程度の観葉植物が揺れる。たしか、パキラとかいう品種。
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