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カウンター席の一番奥に座ると、店員さんが薄茶色のおしゃれなおしぼりを待ってきた。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
私は早く飲みたかったのもあり、適当に赤ワインのデキャンタと、いろいろピクルス、赤えびのアヒージョ、灰皿を頼んだ。
「おタバコ吸われるんですね、僕もです。」
さらりと笑った青年は、緩いマッシュを揺らして厨房に戻っていった。彼は、こんな涙を流したことがあるのだろうか。泣けども泣けどもすっきりしない、自分のためだけの涙を。それは透明ではなく、くすんだ灰色の涙。
しばらくすると、ワイン、料理、灰皿が運ばれてきた。
「ごゆっくりどうぞ。」
やはり彼は、笑いなれていた。あまりにも自然に、きれいな笑顔を作った。それは安住さんのそれとも、私のそれとも違った。
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