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ワインをデキャンタからグラスに、勢いよく注ぐと、少しこぼれた。が、それを一息で飲み干した。少し無理したか、と思う間もなく、メビウスに火をつける。深く、きつく吸い込むと、大きなため息をつく。気持ちがよかった。まるで私は、悲劇のヒロイン。その所作の美しさに、きっとこの店の誰もが、息をのむ。私のうしろ姿に、リップのついたフィルターに、息をのむ。たぶん。
ピクルスも、アヒージョも、最高にうまい。と同時に、「お前にうまいものを食う資格があるのか?」という気持ちが、心の奥底から、せり上がってくる。ワインを飲む。「思い出せ、昼、お前は愛子ちゃんに、どんな話題を振った?」タバコを吸って、「お前は最低の人間だ。なのになんでこんなところで、うまい飯を食っている?」「お前は優しい安住さんを切って、お前のことなんかみじんも大切に思っていない愛子たちを選んだんだ。」
気が付くと、また、泣いていた。この一本を吸い終わったら、すぐ店を出よう。ごめんなさい。私なんか幸せになっちゃダメなのに、本当にごめんなさい。
その時、隣に気配を感じた。
「あなた、大丈夫?」
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