第一話 かわいそうにね、芽衣子ちゃん。

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 でも、女の世界でみんな仲良しなんて、不可能な幻想だ。それに気づいたのは中学の頃だった。私は、クラスで覇権を握っていたマサモトくんの彼女、エリカにいじめられ、「これ以上いじめられたくなかったら、」と、ある女の子への嫌がらせに加わるよう言われた。その女の子は学年で一番かわいい子で、誰かが困っていたら率先して助けるような、とてもやさしい女の子だった。みんなから好かれていた。それは、マサモトくんも例外ではなかった。私はそれを二つ返事で引き受け、それ以降、“優しい私”から遠ざかっていった。それに反比例して、優しいね、とか、かわいいねと、言われることが増えるようになった。スクールカーストの順位は上がっていった。人は、周りの評価で、意見も態度も変えてしまう。やらなきゃ、やられるのだ。  食堂から帰ってくると、一生懸命書類を直している安住さんと目が合った。安住さんは一瞬戸惑い、恥ずかしそうに、自虐するように、にこ、と笑った。その笑顔は、今にも飛ばされそうなタンポポのようで、私はすぐに視線を逸らした。  
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