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「ちょ、やめろよリリカ!」
「あはは、奏多ってほんと髪の毛ふわっふわだよね!」
「ぐしゃぐしゃになっただろ! なんだよいきなり……っ」
突然の大声に、ガサガサと衣ずれの音が続く。おそらくリリカに髪をいじられ、奏多が手櫛で直しているのだろう。
あたしはイヤホンをはめた耳を両手で押さえ、その後の様子に耳をそばだてた。
「ねぇ奏多、大橋さん、明日にでもけろっとして帰ってくるといいね」
笑いながらだと分かる声で、リリカが言った。
あんな女もう帰ってこないわよバーカと思いながら、息をつめて奏多の返事を待つ。けれど、校章に仕込んだ盗聴器は、彼のテノールを拾わなかった。
あたしは舌打ちしてため息を吐き、ダイニングチェアの背もたれに身を預けた。うなずいたのか、ただの無言か、そこが気になるところだ。
それにしてもリリカのやつ、ちょっと距離が近いな。奏多の髪に触るなんて、イエローカードだ。ただの幼なじみだと思ってノーマークだったけど、あんまり調子に乗ってるようなら、退場させてあの女と同じ山に埋めちゃおう。
奏多を世界一愛してるのはあたし。彼が大人になるまで、悪い虫がつかないように守ってあげなくちゃ。そのためにあたしは、あんな冴えない中年男と結婚したんだから。
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