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通学中の奏多に一目惚れして四年。ひとつ屋根の下に住み、日々成長する彼を一番近くで見られる最高の環境を、あたしはやっと手に入れた。
「ねぇ奏多、新しいお母さんどう?」
「普通にいい人」
「すごく若いんでしょ? うちのクラスにまで噂流れてきてるよ」
「まぁね」
「おーっす! 奏多、漢字やったか?」
男友達が合流したらしく、その後の会話が低音に変わる。リリカはいるのかいないのか、声が聞こえなくなった。
普通にいい人、か。さっき奏多がどんな顔をしてたか見たかったな。
あたしはにんまり笑って立ち上がった。彼と友達の他愛ないおしゃべりを聞きながら朝の掃除を始めるのが、あたしの日課だ。
シンク下の収納の隅に、キラリと光るものがある。何だろうと手を伸ばすと、金色のピアスだった。たぶん、奏多の「前の母親」のものだろう。
持ち主の隣に埋めてあげようかな、一瞬そう思ったけど、やっぱりめんどくさいや。
あたしはそれをティッシュに包んでゴミ箱に捨て、愛しい奏多と一緒に始業のチャイムを聞いた。
リリカを山に埋めたら、三人で「川」の字になるな、川の字って幸せな家族の象徴だよね、なんて、ぼんやり考えながら。
【了】
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