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「おっはよー、奏多!」
弾む声をかけられた。駆け寄ってきたのは、幼なじみのリリカだ。
「おはよ、今日寒いな」
奏多がホウッと息を吐く。三月だというのに、今朝の気温は氷点下だ。ぐるぐる巻きにしたチェックのマフラーは、小柄で童顔な奏多によく似合っている。
「今日漢字テストだね」
「え、そうだっけ?」
「奏多っていつもそうだよね、大丈夫?」
リリカは呆れた声を出したけれど、奏多は昨夜、ちゃんとテスト勉強をしていた。おおらかなようで、真面目な性格。ただそれを、格好悪いと思って友達に言いたくないだけだ。
「そういえば、奏多のクラスの大橋さん、まだ見つかってないんだよね?」
「うん、たぶん」
「もうニ週間かぁ」
「家出にしては長いよな」
「あの子さ、奏多にバレンタインチョコくれたんでしょ?」
「うん」
「告白、とか……されたの?」
遠慮がちに聞かれ、奏多は黙った。否定しないのはつまり肯定だと、彼も分かっているだろう。
「そっ、か……」
複雑な心境を滲ませ、リリカがつぶやく。どんな返事をするつもりだったのか、それを聞くかと思いきや、彼女はしばらく無言で歩を進めた。
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