「おやすみなさい」の声をきかせて

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私の家のお向かいに、ジュースの自動販売機がある。 大手メーカーの自販機で、学校帰りの学生さん、帰宅途中のサラリーマン、ちょっと喉を潤したい近所のおじさん。 さまざまな人が入れかわり立ちかわり、自販機にやってきては去っていく。 私も3日に一度は買いにいく。 なんてったって、コンビニが徒歩圏内にない田舎暮らし。自販機は貴重だ。 ときどき新しい味が入荷すると、たちまち売り切れる。 週に2、3度は補充の車が来るほどの人気っぷり。 高校の通学路沿い、バス停前、近くに会社の寮として借り上げられたアパートなど、売れる条件はそろっていた。 夜、静かな時間にガタンッとジュースの落ちる音がすると、私の部屋にも聞こえてくる。 家の中で自販機にいちばん近いのは、通り沿いの私の部屋。勉強しているときに何本もまとめて買っていく人がいると、さすがに集中が切れて、難儀することもあった。 まったく、こっちは大学受験で必死になっているというのに。 それでも、ある時から楽しみがひとつ増えたんだ。名前も知らない、すてきなあのひと。いつも3本買う、あのひと。
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