「おやすみなさい」の声をきかせて

5/12
154人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「……っ、おっ……おやすみなさい」 私はパッと目をそらし、家へ向かって1歩を踏み出した。 心臓が痛いくらいドキドキする。 小走りで玄関を駆け抜けて、自分の部屋のドアをぶち開け、ドカンと閉めて電気をつけた。 たった5歩をこんなに急いで帰ったことがあっただろうか。勉強し直そうとイスに座っても、胸の高鳴りはしばらく収まらなかった。 次の日の夜も、気だるく蒸し暑かった。受験生にとっては最悪の天候。エアコンの効きも悪い。 イスに片足を乗せながら、パタパタとうちわであおぎ、単語帳をめくるが全く頭に入らない。 だめだ、こりゃ。ちょっと休憩しよう。イスから立ち上がると同時に、窓にカチッカチッと何かが当たった。 なに? 変な音。ちょっと怖い……。いたずらかな? 窓のすぐ外には、背丈より少し低いくらいの塀があり、その向こうは道になっている。 道を歩く人の声はよく聞こえるけど、窓に何か当たる音は初めて。おそるおそる窓を開けると、昨日飲み損ねたグレープソーダのペットボトルが塀の上に置かれていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!