死婚

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 「先日、亜紀子さんと色々お話しして、私の気持ちの中にこの人だと‥‥‥、衝撃に似た感情が走り抜けました。同じ境遇と同じ誕生日だと言うこともあり、偶然で終わらすには余りにも単純過ぎて、二人の宿命だったのではないかと思える程でした。まぁ、この事は後付で何とでも言える事ですが、一番は、あなたの人柄にあります。数時間お話ししただけで亜紀子さんの何が解るのかと思われるかも知れませんが、人を見る目に関しては特化してると自負してます」  私は智彦さんの話に、心臓の鼓動が破裂するのではないかと思える程、呼吸が乱れ、肩で何度も破裂寸前の鼓動を抑えるのに必死だった。  「‥‥、守りたいと、亜紀子さんを守りたいと思いました。亜紀子さんとなら二人歩きができて、やがて産まれてくる二人の子供の幸せそうな映像が脳裏を支配して、やっと、巡り会えたと確信に似た感情があの日以来ずっと私の気持ちの中に宿っているんです‥‥。後、おばさんだなんて思ってないですから、あはは」  「‥‥、嬉しいです‥‥。こんな私の事を‥‥、嬉しくて、今は何て答えたらいいのか‥‥」  瞼の震えが限界を超えて、大粒の涙が遠慮を忘れていた。  「先程もいいましたが、ゆっくり考えてみて下さい‥‥、で、来週も此処で会って頂けませんか?」  「はい、是非‥‥」    その時、女将さんが料理を運んで来た。  「失礼しますよぉ、今日は良いプリが入ってねぇ‥‥、お刺身とブリ大根、他にあれば遠慮なく言って頂戴ね」  「熱燗お願いします」  「はいよ!お連れさんは飲み物は何にしましょ?」  「‥‥、生をおかわりで」  「はいよ!生ね‥‥、お連れさんは嬉し涙!それとも智ちゃんに意地悪された?」  「意地悪だなんて‥‥、嬉し涙です」  「やっぱり!嬉しいねぇ‥‥、うちへは、遠慮なくいつでもいらして下さいね!」  「あっ、はい!ありがとうございます」  女将さんの瞼が少し腫れていた。  きっと、智彦さんの事を我が子のようにいつも気に掛けてくれていたに違いない。  それから食事を済ませ、表に出た。  「今、タクシー拾いますから」  「いぇ、まだ電車ありますし、今日は電車で帰ります」  「わかりました。では、駅まで送りましょう」  心地良い風に吹かれながら智彦さんの左側を歩いていた。  時折、夜空を眺めては都会の星の少なさに少し寂しい感情が小さな溜息を導いていく。  生まれ育った壱岐島の、今にもこぽれ落ちそうな星空が記憶をくすぐり始めた。  「壱岐島の星空はさぞかしきれいなんでしょうね」  「はい、今にもこぼれ落ちそなくらい輝いてます」  私が夜空を眺めているのに気がついた智彦さんのさり気無い気遣いに、また胸を熱くした。
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