死婚

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 次の週の金曜日、小料理屋へと向かった。  この一週間はとても長く感じた。  何度、明美に相談したことか‥‥。  「智彦さんは間違いなく亜紀子が思ってることは、百も承知だよ。ちゃんと考えた上での事だから、亜紀子は全てを智彦さんに預けて任せたらいいんだよ」  暁美の言葉には凄く勇気づけられた。  でも、不安は拭いきれなかった。  駅前を歩きながら、夜空を眺めていた。  相変わらず東京の空は星が圧倒的に少なかった。    「あら、いらっしゃい!」  小料理屋の暖簾を潜ると女将さんの元気な声と笑顔に思わず会釈した。  「座敷でいいかしら?」  「はい、あっいぇ、智彦さんは?」  「直に来ると思うよ」  座敷に通されると、女将さんはおしぼりとお茶を運んで来た。  「智ちゃんを離しちゃ駄目だよ?しっかり捕まえてなきゃ」  「えっ、あっはい‥‥」  「あはは、大きなお世話よねぇ、けどね、しつこいようだけど、大会社の跡取りとか資産家だとか、そんな事は二の次で、智ちゃん自身を信じて、あなた自身を智ちゃんに託しなさい‥‥、あまり深く考えると、お互いがサヨナラを選択せざるを得なくなっちゃうよ?お互い真っ直ぐすぎて‥‥、そこが心配」 「‥‥、女将さん、ありがとうございます」  女将さんの言葉は図星だった。  ここを乗り越えなければ、智彦さんも離れて行ってしまう。  乗り越えると言うよりは、智彦さんの事を信じて、自身の気持ちに正直であればいいんだと、気持ちの切り替えに必死だった。  
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