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程なくして、智彦さんが来た。
「ごめん、待たせたみたいで」
「いぇ、少し早く着きすぎて‥‥」
智彦さんはスーツを脱ぐとネクタイを少し緩めた。
「生で大丈夫ですか?」
「あっ、はい」
「料理は?」
「お任せしていいですか?」
智彦さんは女将さんを呼ぶと飲み物と料理を頼んだ。
「あの‥‥」
私は、正座して智彦さんを真っ直ぐ見た。
智彦さんも私の正座に釣られてか、ハッとした感じで正座した。
「お酒が入る前に‥‥」
「‥‥はい」
心臓が破裂しそうだった。
鼓動が座敷中に鳴り響いているんじゃないかと思えるくらい、ドキドキが気絶しそうなくらいの緊張感を連れてくる。
「先日の返事なんですが‥‥」
「あっ、はい!」
智彦さんも緊張しているのか、些か高い声で返事した。
「私なんかで良ければ、是非お付き合いをお願い致します」
「ほっ、ホントですか!あっ、ありがとうございます!」
智彦さんは頭を深く下げた。
「お礼なんて、どうか頭を上げて下さい」
智彦さんは暫く頭を上げる事はなく、肩が小刻みに震えていた。
時折、鼻を啜る音に私は熱くなる目頭を瞬きで誤魔化しながら、私の返事に涙を流してくれてる智彦さんを一層愛おしく思えた。
「‥‥、亜紀子さん‥‥」
「‥‥、はい」
「本当にありがとう!‥‥まさか、今日返事頂けるなんて思いもしなかったもので、言葉が見つからないというか、歓喜が‥‥、すみません、ありがとうしか言葉がなく‥‥」
「いぇ、お礼を言うのは私の方ですから‥‥」
暫く、静寂が座敷を支配していた。
女将さんが料理を運んで来る迄の数分が長く感じた。
嬉しかった。
言葉を失うくらい、涙を流して‥‥、
‥‥、喜んでくれた智彦さんの気持ちが
嬉しかった。
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