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「御両親は島に?」
智彦さんの質問に少し間を置いて、私はゆっくりとカクテルグラスをコースターに戻した。
「‥‥、いえ‥‥私が産まれて直ぐに二人共‥‥蒸発したらしく、未だに行方がわかっていません‥‥」
「‥‥、言い難い事聞いてしまいましたね。すみません」
「あ、謝らないで下さい。普通の会話の極当たり前のことですから‥‥気になさらないで下さい」
智彦さんは暫く黙り込むと、ジントニックをお代わりした。
私は、自分の生立ちを話すのが怖い。
皆‥‥、私の前から去って行くからだ。
智彦さんは、有名な資産家の御曹司、イケメンでかなりのやり手だと社内では良く耳にする人だった。
容姿も申し分なく、人柄も温厚で次期社長のオーラを醸し出してはいるものの、威張る様子もなく、紳士そのものだった。
そんな人が、未だに独身でいる事が不思議で仕方なかった。
そんな智彦さんと初めて会ったのは、1ヶ月前に取引先会議に参加した事がきっかけで、会議が終了した後に開かれた懇親会で何気ない会話が弾み、同期の暁美と食事に誘われたものの暁美は既婚者であると言う理由から辞退した。
暁美か辞退した本当の理由は、きっと私に気を使ったに違いない。
暁美は入社以来、私の良き相談役であり唯一の親友でもあったからだ。
「‥‥、身よりもなく、高校を卒業するまで孤児院で育ったんです」
「話したくない話なら無理に話さなくてもいいですよ?」
「いえ、別に隠す必要もないし、消す事は出来ない私の過去ですから」
静まり返ったバーにカクテルグラスの氷が溶ける音が妙に響いた。
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