死婚

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 「‥‥、両親に抱きしめられることも無く、ずっと孤独な人生を過ごして来たんですね‥‥。可哀想に‥‥、両親を恨んでますか?」  智彦さんの肩が震えていた。  「‥‥、恨みですか‥‥。今は、そんな気持ちはありません。両親が蒸発し孤児院で育った過去が原因で婚約破棄になったり、大切に想ってた人が去って行ったり‥‥、その時は、流石に恨みました。やるせない気持ちを落ち着かせるには顔すら知らない両親を恨むしか術はなかったんです」  智彦さんは私の話しを静かに聞いてくれていた。  その眼には涙が滲んでいたんだ。  「‥‥、良く頑張って、拗ねずに此処まで歩んで来たんですね。あなたの事を何も知らないけど、あなたの話からそう思えます」  「‥‥、ずっと、友達に恵まれていたからだと思います。何度も何度も救われて来たから‥‥」  暫く、沈黙が小さなバーを支配していた。  「‥‥、実は私も親の顔‥‥、知らないんですよ」  「えっ?」  驚いた私は、カクテルグラスを手の甲で引っ掛けてしまい、危うくグラスを倒しそうになった。
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