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「私が2歳の時に、交通事故で‥‥身寄りがない私を特別養子縁組で今の両親に引き取られたんです」
「‥‥‥」
私はどう答えたらいいのかわからず、智彦さんの横顔をじっと見つめていた。
「もうこんな時間‥‥、今日は帰りましょう」
智彦さんはそう言いながら、バーテンダーにカードを渡した。
私は小さく頷き、何となく気まずい雰囲気を気にかけながら席をたった。
‥‥、嫌われたかな?
私は心の中で溜息を吐いた。
「‥‥、すみません」
バーを出たドアの前で智彦さんに頭を下げた。
「ん?」
「なんだか、暗い話になってしまって‥‥」
「あはは、気になさらないで下さい」
「‥‥」
「良ければ、また食事に誘ってもいいですか?」
智彦さんは優しい笑顔で真っ直ぐ私を見てくれていた。
「はい!勿論です!」
ついさっきまでの不安な気持ちが一瞬で吹き飛んだ。と、同時に涙が溢れ出した。
‥‥、また失ってしまうのかと、頭の中で不安な気持ちが暴れていたからだ。
表に出ると、智彦さんはタクシーを止めてくれた。
「今日はありがとう、また連絡します」
タクシーの後部座席に座った私にドア越しにそう言ってくれた。
「はい!今日はご馳走様でした」
ドアが閉まり窓越しに智彦さんに何度も頭を下げた。
智彦さんは片手を上げて、また優しい笑顔を見せてくれた。
‥‥、嫌われてなかった。
流れる景色の中に大きな安堵の溜息を吐いた。
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