死婚

　「算数の宿題、絶対に忘れない事！明日は授業参観！忘れた者は親の前で廊下に立って貰うからな！いいな！」

　「はーい」

　小学生最後の授業参観……、毎年逃げ出したくなる長い長い五十分だった。

　「澤田は良いよなぁ、誰も来ないから」

　「……」

　「あぁ、明日は憂鬱だぁ」

　クラスの武志がランドセルを肩に掛けると帽子を深く被った。

　「武志！亜紀子に謝んなよ!」

　久美ちゃんが武志の前に駈け寄った。

　「久美ちゃん!大丈夫だよ、武志はそんなつもりで言ったんじゃ、ないと、思うから」

　「わかってる!けど、それは言っちゃ駄目だよ!」

　「……、ご、ごめん」

　薄暗い天井を眺めなていると、小６の一コマが頭の中を過ぎった。

　武志は私の初恋の人……。

　久美ちゃんは高卒までずっと私を守ってくれた親友だった。

　小３から小５の3年間はガキ大将達に、みなし児だの蒸気機関車をモジッて蒸発機関車だのと勝手なアダ名をつけられては、良く馬鹿にされていた。その度に久美ちゃんが助けてくれたんだ。

　武志は小５の時から同じクラスだった。

　三学期も終わりに近い頃、久美ちゃんが風邪で休んでいた日だった。

　久美ちゃんが休んでるのをいい事に、他のクラスのガキ大将達に廊下でからかわれていた時だった。武志が突然現れて大将の背中に飛び蹴りをして撃退してくれた。

　以来、私は武志に好意を抱いた。

　……、武志と智彦さんが重なる。

　……、何故だろう?

　……、優しい笑顔が似てるから?

　薄暗い天井に二人の笑顔がぼんやりと交差していた。