窓際ロックンロール

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 誰が呼んだか窓際族。  貴族、民族、社用族。裸族、親族、太陽族。「族」は世間に数あれど、誰もが属したくないと思っているであろう「族」がこの窓際族であり、何を隠そう俺が今属しているのがこの窓際族なのである。  一応簡単に説明しておくと、窓際族というのはどの部署にも所属することができず、窓際に座って外の景色を眺めたり、雑誌を読んだり、ただひたすら鉛筆を削ったりしている社員のことを「窓際おじさん」と呼んだのが始まりで、つまり役に立つとは決して思われていない社員のことだ。  この話を分かりやすくするために言ってしまうと、俺は同期の霧ヶ峰源治とふたりで我社の窓際ツートップを形成してしまっている。何の自慢にもならないが、我らが大竹商事始まって以来の不世出のツートップ、濃縮窓際族というわけだ。濃縮窓際族、などという単語は日本語としてどうかとも思うが、つまり俺たちふたりは窓際要素がたっぷりみっちり詰め込まれ、「窓際族とはなんぞや」という問いに対する答えを体現し、「実録、これが窓際族だ!」というタイトルでもつければぴったりのふたり、というわけだ。  俺も霧ヶ峰も同じ営業部(の隅っこ)に所属しており、クリーニング用品の営業をしているのだが、今のご時世、どの会社も飛び込み営業に対する視線は冷たい。  「怪しい者ではございません」  「悪徳商法ではございません」  そんな弁解をするから誤解を避けられないのだということは、重々承知している。しかし、こればっかりはどうにも治らない。もちろん、営業成績も一向に上がらない。  こうしてコツコツ切り崩してきた信頼も、今ではもう切り崩すものがなくなり、なぜ俺たちが今も会社に在籍していられるのかは、大竹商事七不思議のひとつと言われている。  七不思議と言っても、語呂がいいからそう言っているだけで本当は七つもないし、他のものも霧ヶ峰のしょうもないイタズラが原因で作られた怪奇現象の類だ。つまり、俺たちが未だ正社員でいられるのは、怪奇現象と同じ扱いということだ。  こうして俺たちは冷たい視線を背に受け、今日も健気に生きている。けっこう、しんどい。  そんな俺たちはこの夏、自分たちなりのアイデンティティーをかけて、世の中の矛盾や偏見に体当たりをぶちかまし、世間が作った壁を壊そうとした。  これは、そんな俺たちの、一夏の青春ストーリーなんだが、まあ聞いてくれ。
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