チワワボーイ

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 企画を主催した玉吉さんの挨拶で打ち上げがお開きになると、蘭丸はギターを担ぎ、早々にその輪から離れた。そして一人、まだ眠らない街を彷徨った。最近はこんな夜ばかり。小さな穴ぐらで爆竹のように弾けた日々が喧騒と共に頭の中を過ぎ去っていく。  きっかけは半年前。リードギター、颯斗(はやと)の一言だった。 ——もう仕事との両立がキツい  自主企画の成功を祝う打ち上げの最中、颯斗から飛び出したその発言に、蘭丸達はその意図するところを上手く飲み込めずにいた。 「確かに来月は繁忙期だもんね、仕方ないよ」プー太の発言にタキがツッコむ。 「バカ、そう言う話じゃねえだろ。なあ颯斗、何ダルいこと言ってんだよ。今日の客入り見たろ? もう少しの辛抱なんじゃねえの?」  タキは短気な性格そのままに苛立った口調で問いかけた。元々クールで口数の少ない颯斗は視線を別の所に預けて黙ったまま。痺れを切らしたタキは立ち上がるとテーブル越しに颯斗の胸ぐらを掴んだ。 「おい、なんとか言えよコラ」 「やめなって、タキ。喧嘩なら外でやろうよ」  先程から少し発言がズレているプー太を無視して二人の視線は対峙する。ヒリヒリとした空気の中、店内は一瞬しんと静まり返る。気の遠くなるようなほんの数秒後、颯斗は重たく閉ざしていた口を開いた。 「……悪いけど」 「……あ?」 「俺もうバンド抜けるわ」
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