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久しぶりとは思えない距離感に戸惑いつつ「知ってる」と答えた。
「お前、勿論ライブ観に行くよな?」
「うん……っていうか」
そこで言葉が詰まる。南に対バンを誘われた事を伝えてもいいのか判断できずにいた。何も言えずにいる状況に痺れを切らしたタキの声の温度が上がる。
「なんだよ、早く言えよ」
「いや、あのさ、さっき南さんと偶然会って……」
「マジで! それ早く言えよ!」
温度計の水銀が割れるほどの興奮にたじろぐ。ただもう言うしかないと、蘭丸は腹を決めた。
「南さんからライブやらないかって誘われた」
「マジで? そりゃ、やるしかないだろ!」
「でも、颯斗が……」
言い淀んだ電話の向こうで表情が曇ったのが分かった。タキも分かってる。チワワボーイには颯斗の奏でる鋭く尖った攻撃力のあるギターが必要だってことを。颯斗がいなければ自分達の音楽は掻き鳴らせないってことを。
少しの無言の後、急激に温度を下げたように口調でタキは言った。
「それはリーダーのお前が決めろよ。俺はどっちだって構わねえよ」
その言葉に背中は押されなかった。そんなの分かってる、俺が決めなきゃいけないことくらい——。「とりあえず、明日、集まろうぜ」というタキの提案に蘭丸はただ頷くだけだった。
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