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「裁判員の公正なる審議に基づき、この結婚は否決とする」
裁判長の言葉に女は泣き出し、男は項垂れた。
2030年。離婚率の高さに不安を抱いた政府は結婚裁判員制度を導入した。つまり結婚を希望する男女の結婚を、政府にランダムに選ばれた裁判員に審議をさせ、その結婚が可決か否決かを決める制度である。今や結婚は、自分達で決める時代ではなく他人に決めてもらう時代になったのだ。
離婚しそうな容易な結婚は認められない。できちゃった婚などは論外!清く正しい結婚を!をスローガンにしていたかどうかは定かではないが、取り敢えず簡単に結婚は出来なくなった。
しかし政府の目論見に反し、「裁判に掛けなきゃ結婚出来ないの?めんどくさい…」と結婚に尻込みする国民の増加により何と結婚率は低下、婚外子の増加。そして可決されめでたく結婚出来た夫婦の離婚は絶対にしてはいけないと言う途轍もないプレッシャーにより、離婚率はなだらかに上昇。
離婚率の増加を阻止するべく作られた結婚裁判員制度が、肝心の結婚率を減少させ、また離婚率を増加さる結果となってしまった。
そりゃそーだ。結婚を他人に委ねるなどとは以ての外!世論のバッシング、変な宗教の増殖、他人の結婚を決める事など出来ないと主張する裁判員に選ばれた国民の辞退の続出、否決されたカップルによる控訴の山。政府はますます問題の山を抱える結果に陥った。
浮気ばかりする遊び人の男には結婚する資格が無いのか?家事が苦手で家庭的で無い女には結婚する資格が無いのか?できちゃった婚は論外なのか?そんな結婚は必ず離婚に至るのか?
そんな事は無い。そんな事は無いのですよ。クズでロクデナシ同士の結婚でも離婚するとは限らない。清く正しい結婚でも離婚しないとは限らないのです。
結婚とは人生最大の博打だ!と言った哲学者がいるとかいないとか…とにかく結婚とは摩訶不思議な縁なのです。憎み合いながらそれでも夫婦であり続ける縁もあり、それもまた、尊い縁なのです。
2035年。僅か5年で政府は結婚裁判員制度を凍結。
無事に結婚は再び個人の決断に委ねられる運びとなる。
現在も離婚率は上昇し続けている。だが不思議な事に結婚率もまた、本当になだらかながらも上昇しつつある。
結婚とは正に摩訶不思議。吉と出るか凶と出るか…ビバ!結婚!
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