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「ただいまー」
ガチャリと扉が開く音に続いて、間延びした声が聞こえた。美咲ちゃんが帰ってきたのだ。
ドタドタと階段を上る音がしたと思ったら勢いよく部屋のドアが開いた。かばんを床に置き、そのままベッドに倒れ込む。そしてぱっと顔を上げ、横になったまま手を伸ばす。
「マロン、ただいま」
美咲ちゃんのあったかい手がぼくの頭にぽんっと乗った。お帰り、美咲ちゃん。
美咲ちゃんが小学生のとき、ぼくはこの家にやって来た。お父さんと一緒におもちゃ屋に行った美咲ちゃんが、ぼくを連れて帰ってくれたのだ。隣にいたウサギでもパンダでもなく、クマのぼくを選んでくれた。
一緒に売り場に並んでいた仲間たちと離れるのは少し寂しかったけど、美咲ちゃんの手の温もりが嬉しかった。
人間はぼくたちを選べるけど、ぼくたちは人間を選ぶことはできない。だから、買ってくれたのが美咲ちゃんでよかったと心の底から思った。
一人っ子だった美咲ちゃんは、みんなが弟や妹と遊ぶ代わりに、ぼくを遊び相手にした。美咲ちゃんが成長するにつれて遊ぶことは少なくなったけど、今でもこうしてぼくに話しかけてくれる。
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