大切なものはいつも近くに

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 引っ越しのトラックが、段ボールをめいっぱい積んで発車した。荷物のなくなった部屋は、今までよりも広く感じた。 ベッドも本棚も運び出され、残っている家具といえば勉強机ぐらいだった。さすがに大人2人が住む新居には持って行かないのだろう。 そしていつもの定位置であるベッドを失ったぼくは、勉強机の上に置かれていた。  段ボールが運び出された今となっては、ぼくは連れて行ってもらえないことは決定的だった。 捨てられはしないまでも、美咲ちゃんはぼくを置いていくつもりなのだ。  さようなら、美咲ちゃん。 小学生のころから成長を見守ってきて、この部屋で何年も一緒に過ごしたね。旅行などで数日いないことはあっても、美咲ちゃんが帰ると必ずぼくは待っていたし、毎日一緒に眠ったよね。 でも、ぼくはもういらないんだね。 すごく、すごく寂しいけど、美咲ちゃんが決めたのならしかたがないよね。 今までありがとう。  ぼくは勉強机の上から、美咲ちゃんの姿を見つめていた。涙がこぼれないように必死だった。ぎゅっと口を閉じる。
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