推しの結婚

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 推しがアイドルになる。そんな企画が立ち上がったのは家がさらに複雑になって、居場所が推しに偏っていた頃だ。  大した仕事をしていなかった私は、アイドルになるためのクラウドファンティングにほとんどない、わずかな貯金の残高を投げ込んだ。経った数千円。その金額の低さがいかに自分が価値のない人間かわかるようで心が痛くなった。それでも、推しの可能性がそれで広がるなら、美味しいご飯が食べられなくてもいいと思った。  推しの笑顔が、虚しい気持ちで食べる高いご飯よりももっと美味しいことを、当時の私は知っていたからだ。  その頃になると、適当に配信を見ながら食べられる軽食の方が、豪華なご飯よりも贅沢な食べ物にな感じるようになっていた。推しの笑顔は、キャビアやフォアグラよりも高級な、おかずだった。    楽しかった。少しでも集金がゴール金額に近づくと、落ち着かなくて何度もサイトをリロードした。そのうちゴール金額に届くと、さらにゴールを上にあげて、それも無事達成して。これから推しの光り輝く未来が始まる。そう思った。
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