1 キス魔な年下君

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丁寧語が消えた違和感と共に彼の目線があっという間に近づいて、唇にくっと押し付けられたものに心臓の鼓動が飛び跳ねた。 本来ならキスというものは、合意の上でするもので、柔らかくて暖かみがあって愛のあるはずのものだ。 だけど今涙君からされてるこれは、一方的なもので、 唇と心臓にいっぺんに強烈なカウンターパンチをくらったようなもの。私はあまりに驚いたから次に何をすべきか頭の中が真っ白になってしまった。 彼は私から唇を離すと、律と楽し気にフライパンを揺すっていた無邪気な顔とはまるで別人のように、艶めいたオスの顔で微笑んだ。 「お姉さん、会った時から思っていたけど、  すごく、綺麗」 脳天にじんわりと響く低音ボイスでそう言われて顔が勝手に熱くなる。再度、頬に指先でするりと触れられて一気に現実が蘇って来て、唇を避けて突き飛ばした。 彼はフローリングの床に後頭部を強打し、仰向けに倒れ込むとパタリと大の字になったまま動かなくなってしまった。サラサラで艶やかな髪がパサリと身じろぎもせず床に広がっている。 やってしまった…。 慌てて傍に駆け寄って、目を閉じたままの彼を揺すった。 「ごめん。大丈夫?!」 ううんと唸って目を開いた彼。ホッとした私に彼は切れ長の目を嬉しそうに細めた。 「やっぱり綺麗。すごく好み」 「な、何言って…」 その熱のこもった視線に今の彼、成瀬さんに初めてキスされた夜のことが蘇る。 なぜ今。あの熱を私に思い出させるの? 成瀬さんもこの部屋でこうやって二人で隣に座ってお酒を飲んでた時、キスをくれた。今、彼が向けている視線の温度が成瀬さんと似ていて怖くなる。思わず視線を下に向けようとしたら、顎を掴まれて、また一つ、短いキスを落とされた。
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