1 キス魔な年下君

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そう囁いた涙君は私ににじり寄って来て、抱きつかれる。身を捩ろうとしたら、呆気もなく身体が離れ、彼は私の上に倒れ込むとそのまま動かなくなってしまった。 やがて耳元でスースーと寝息が聞こえてきた。 寝ちゃった…。 二回もキスされた上に、変な事を囁かれて、勝手に寝られて。 これは何?何の罰? さっぱりわからない。 私は彼に見られてないのをいいことにゴシゴシと唇を肘で拭った。少しサワーの酸味の残るキスがふたつ。さっぱりわかんないから、こんなこと。苛立って彼の身体を持ち上げようとしたけど、ビクともしなくて、ウーンと呻いた。 「あー、やっぱり襲われたか」 いつの間にか律が突っ立っている。 「どういうこと?ちゃんと説明して」 「シッ、起きるだろ。とりあえずソファに寝かせてから話す。手伝って」 律は涙君を後ろから持ち上げる。私は足の方を持って二人でヨイショと抱き上げて、ソファに横たわらせた。離れようとしたら涙君がううんと唸って、カーディガンの裾がギュッと掴まれた。見ると涙君は穏やかに微笑しながら寝息を立てている。 子供の様に邪気の無い寝顔。相反するさっきキスして来た時の強引。あれを感じさせるような様子はどこにもない。まるで別人みたい。 「お酒呑むと誰彼構わずキスしたくなるらしい」 「……何それ」 「知り合ったバーで酒奢ってやったら、俺もやられたよ」 「え?!」 律はやけに意味ありげな笑みを浮かべた。   「まあ、悪い奴じゃないから、暫く置いてやってよ」 しれっと言うと律は胡座を掻いて残っていたサワーを喉に流し込んで、私を見た。
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