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「安心しなよ、萌歌。同居するのはここじゃなくてもいいらしい。涙が俺にキスした罪滅ぼしに家を一軒用意してくれるってさ。俺もそこに越すからいざとなれば萌歌を守ってやれる」
「は?何それ」
素っ頓狂な顔をした私に律はまた意味ありげに笑む。
「聞いて驚くな。涙さ、すげえいいとこの坊ちゃんらしい」
「坊ちゃん……?」
「まぁ、今は家を追い出されて路頭に迷っているらしいけど、こずかい貯めた金はあるから当面の生活には困らないんだって」
「追い出された…?一体何があった訳…?」
私は律の矢継ぎ早な状況説明についてゆけず涙君を見た。どうやら子供のような無邪気な寝顔の下には複雑な家庭の事情を隠しているみたいだ。
「ねぇ、詳しく聞かせてよ」
私は思わず聞いていた。失礼なオトコだと思って憤っていたけれど、急に彼自身に興味が湧いた。好奇心なのか、犬か猫でもいいからと私を縋るような目で見てきた涙君の人となりを知りたくなっていた。
素性など知りたくないと追い出しても良いのに、彼のことが知りたくなったのはたぶん、離れないでよ、と言うように今もギュッと私のカーディガンを掴んで眠る彼に、母性本能のような感情が湧いたのだと、その時は思っていた。
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