クラッチブーケ

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 翌年の二月、バレンタインの日に、挙式会場のドアが開かれた。  堂々と歩く新婦と、その隣で気恥ずかしそうに歩く新郎に、たくさんの祝福の声や拍手が送られる。  その中には、頬を弾ませる環奈の姿もあった。  新婦の美咲の手には、一年前と同じブーケが握られている。  必死で作った跡がはっきりと見て取れる歪なブーケは、そこに束ねられた思いの複雑さを物語っているようでもある。    新郎新婦が退場した後、なにやら司会に呼ばれた環奈は、一人で祭壇の上に立たされた。  そして、再び挙式会場の扉が開かれると、そこにはもう一つ見覚えのあるブーケを持った美咲が立っていた。  環奈は、一年前と同じようにピタッと固まった。  美咲の笑顔と一緒に、濃いピンクのバラが環奈のほうを向いている。  元々渡す予定だったブーケと、同じデザインのブーケだ。  花選びに悩み、何度も作り、納得するまで練習した思い出が頭をよぎる。  美咲は環奈のほうへと歩き出した。 「せっかくだから、これも持とうと思って。似合うでしょ?」  何度もうなずき涙を流す環奈を、美咲がやさしく抱きしめると、会場から大きな拍手と歓声が巻き起こった。  美咲から、今日という日を迎えさせてくれた環奈への、サプライズだ。  会場の裾では、それを作った春菜が(ひそか)にそれを眺めて、涙ぐんでいる。   「ありがとう」「私こそ」  何度もその言葉を交わす二人の間で、濃いピンクのバラが、花言葉を告げるようにやさしく揺れていた。 〈おわり〉
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