クラッチブーケ

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「私、結婚することになったの」  突然の美咲の言葉に、ケーキを口元まで運んでいた環奈の動きがピタッと止まった。目線だけがケーキから美咲の方へ向けられる。 「ごめんね、突然」  環奈は目を丸くしたまま、首を横に振った。  驚きのあまり、言葉が出ないらしい。  代わりに半開きの口元の端に、艶やかな(しずく)がキラリと光る。 「ちょっとあんた、ヨダレ!」  環奈は我に帰ると、慌てておしぼりを手に取り、口元をそそくさと拭いた。 「ごめん美咲ちゃん」 「まったく……あんたも、もういい大人なんだから、しっかりしなさい」 「えへへ」  久方ぶりの再会ではあったが、カフェで向かい合う相変わらずの幼馴染の様子に、美咲は胸をなでおろしていた。  いつも、気がかりだった。  自分の後ろをくっつくように歩いていた環奈が、社会に出て上手くやっていけるのか──。 「美咲ちゃん、おめでとう」 「ありがとう」  環奈の置いたおしぼりを見て、美咲はクスッと笑った。  口元を拭いたおしぼりは、ほんのりと色づいている。それは環奈が大人になったことを、美咲に告げているようでもある。 「おめでとう。びっくりしたけど、あのね、美咲ちゃん……」  美咲は穏やかな顔のまま、首を傾げた。 「私も結婚するの」  傾いた美咲の首は、亀のように環奈の方へまっすぐ伸びた。 
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