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「あんた、なんで私に言わないの!」
叱りつける上司と部下のような様子に、店内の気まずそうな視線が一斉に注がれる。
それに気づいた美咲は思わず口元に手をやった。しかし、その勢いは止まらない。
相手はどんな人か。
ちゃんと準備は進んでいるのか。
ご両親にあいさつは済ませたか。
家事はできそうか──。
小言を言ってくる母親のような美咲の様子に、環奈はフフッと笑った。
「大丈夫だよ、美咲ちゃん。心配してくれてありがとう」
そう言いながらケーキを頬張る環奈の口元に、さっきから生クリームが付いている。
仕方なく、自分のおしぼりを渡そうと美咲は手を伸ばした。
しかし、それより先に環奈はバッグの中からウェットティッシュを取り出した。
ついでに手鏡を片手に、口元をチェックする。
「まぁ、あんたも大人になったわね」
それなりにも大人になっていた環奈に、安心と同時に少しだけ、寂しさのようなものも感じる。
「えへへ」と笑う環奈を見た美咲は、「私もお腹空いちゃった」と言ってケーキを注文した。
「いいの? 太るよ?」
「いいのよ。あんたも、一人じゃ食べづらいでしょ?」
ケーキを頬張りお喋りをする二人の姿は、背伸びをした女子高生のようだった。
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