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カンバスを持って外へ出ると、くらっとした。
それは眩しい日差しのせいだけじゃない。
妊娠初期の貧血症状だ。
リョウは執筆期間中は、まったく性欲を見せない。
お腹の子は、俊一さんの子。
だけど私はその事実を誰にも告げない。
流されるままに生きてきた。
だけど、子どもを流すことなんてできない。
母親は私を消すことはしなかった。
それだけは感謝していた。
リョウとの恋愛ごっこ。
俊一さんとの結婚ごっこ。
カタチだけのものでも、私は幸せだったから。
ふたりと別れても、私はその事実は無くさないから。
幸い父親の遺産は充分にある。
私は、お腹の子と、自分が描かれたカンバスだけを抱えて、これから生きていく。
満たされた記憶とともに、独りで。
追い風が吹く。
私は大空に、こころの翼を広げた。
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