3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
☆
「杏奈、もうちょっと上向いて」
リョウが鋭い眼光を放ち、カンバス越しに筆を上げる。
私は姿勢を正す。
椅子に座り、彼に対して斜めを向く形で私は絵のモデルをしている。
全裸で。
ここはリョウの通う美大の狭い部屋。
個人で作業室を持つことができるらしい――この8畳ほどのスペースには彼の作品が所狭しと置いてある。
スケッチブックと油絵ばかりで、絵の具のむせ返る匂いがすごいけど、それももう慣れっこだ。
作業に集中するためと、私が全裸なため、部屋には鍵がかけられている。
だから何をしてても、周りには気づかれない。
彼氏のリョウとこうして会っていることも、俊一さんの目には届かない。
「杏奈、太った?」
「え? そう?」
カンバスと私を交互に見、呟くように彼は言う。
「どうせ毎日いいもん食ってんだろ。肉とかステーキとか」
「ステーキは肉のうちだよ。それに俊一さんはフライトが多いから家にいる日もそんなにないし、独りで適当に済ませてる」
「ふーん」
彼は聞いているのかいないのか、曖昧な返事。
少し長めの黒髪を揺らし、筆を動かしている。
最初のコメントを投稿しよう!