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☆
「じゃあ、行ってきます。今日は仙台までフライトで、そのままステイだから」
「あ、帰ってこないの」
「うん、じゃあね、杏奈ちゃん」
玄関先で俊一さんは私の頬に手を当て、にっこりと笑って出社した。
彼の手はあたたかい。大きい。柔らかい。優しい。
彼に触れられると気持ちがいい。
まるで幼き日に父親に撫でられた感覚を思い出させる。
結婚して数カ月。
私は日に日に俊一さんに馴染んでいく。
自分の色が変わっていくのを感じていた。
果たして私はこのままでいいのだろうか。
俊一さんというひとがありながらも、リョウと関係を続けていていいのだろうか。
そんな当たり前の疑問に、やっと気づくようになってきた。
目を閉じる。
深呼吸をする。
目蓋の裏に浮かんでくる。
リョウの茶色い瞳ではない、慈愛に満ちた俊一さんの瞳。
私は、俊一さんのことを段々と愛し始めているのだ。
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