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☆
我が目を疑った。
その日もリョウと会っていて、絵のモデルを終えた。
リョウはまだ創作に打ち込みたいというから、ひとりで大学のキャンパスを出た。
俊一さんは仙台にステイだし、私ひとりで晩ご飯はどうしようかなと暢気に考えていたところだった。
大通りを歩いていると、仲よさそうに腕を組む、前を歩くカップルに目が行った。
女の人は茶色い巻き毛にミニスカート、ハイヒールといった格好で、いいなあ私ももう少し年をとったらああいう大人になりたい……とついつい見入ってしまう。
男の人も上背があって、スーツがぴしっと決まっていて、きっと顔を見たらイケメンなんだろうな、と思いながら、ふとある一点に視線が集中した。
男の人のうなじに、大きなホクロ。
じわっと私のこころに嫌な予感が染み入った。
あんな珍しいホクロ、滅多にあるもんじゃない。
その刹那、女の人が手にかけていた薄手のカーディガンを落とした。
男性が笑って拾う。それは見紛うことのない、いつも私に向けられている慈愛の瞳。
――俊一さんだった。
私は信じられなくて、信じたくなくて、そのまま憑りつかれたように彼らの後をついて行く。
しばらく歩いてある場所に辿り着き、彼は女性の腰に腕を回し、流れるようにその建物へと入って行った。
『〇〇航空 女性寮』
エントランスにはそう書かれてある。
その航空会社は、俊一さんが所属しているところだった。
すーっと血の気が引くのを感じた。
そんな感情を覚える筋合いはない。
私だって、リョウと未だに会っている。
だけどこの感情を拭うことはできなかった。
嫉妬だ。狂いそうだ。
私はこんなにも俊一さんのことを愛してしまっていたのだ――。
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