夢を見ていたい

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「おい!!!沢田ぁぁぁ!!!」オフィス内に上司の怒号が響く。 しぶしぶ上司の席まで行くと 「何だこれは!!!ミスだらけじゃないか!! 書類を出す時はまず俺を通せと言ってるだろ!!」と上司は叫ぶ。 通さなかったのはあなたが通さなくていいと言ったからです。とか、 あなたに通したところでどうもなりません。とか言っても 上司の怒りのタネを増やすだけなので、適当に謝っておく。 上司の説教も聞いてるフリをして、右から左へ受け流す。 説教が一段落ついたので席に戻ろうと回れ右をする。 席について一世代前のPCの電源スイッチを押したとき、 「誰が親のいない中卒を雇ってやったと思っとるんだ!!」 その一言で場が凍り付いた。 頭の中で何かが、プツンと切れた。 一撃、あの憎らしい野郎に食らわせなければ気が済まない。 いや、だけどまだその時じゃない。落ち着け、私。 平静を装ってビジネスバッグから白い封筒を取り出し、紙コップを出来るだけ いつもの調子で持ち、オフィスのコーヒーメーカーまで持って行く。 紙コップにコーヒーが並々と注がれる。 溢れ出る感情を抑えてコーヒーと白い封筒を持って上司の机まで向かう。 空気感、よし。封筒の中身、よし。コーヒーの量、申し分なし。 一つ一つ確認作業をした後、上司の机の前に着いた。 息を肺の限界まで吸い込み、筋肉のないふにふにの腕でギリギリまで力み、 封筒を机に叩きつける。 ―仕事、やめます。 上司に事を理解させる隙をも与えず、コーヒーを紙コップごとぶっかける。 急いで帰る準備をし、オフィスから逃げるように出る。会社から出る。 気付けば駐車場を通り過ぎていた。 車のドアを開き、乱暴に閉める。 サイドミラーには髪の乱れた自分の姿が。 帰ることに夢中でアクセル全開で車を走らせる。 ―家、行こう。 私はそれ以外考えることが出来なかった。
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