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身支度の仕方や、今日の予定は身体が、というよりモーヴの記憶が覚えていた。木を切り倒すための斧や、剪定用のハサミの手入れの仕方、それらの道具を収納してある仕事用の大きなバッグ…。
必要なものを全て揃えて、モーヴは家の居間へと降りていった。
「今日は随分ゆっくりじゃないか、モーヴ。」
エルケが振り返りこちらを見た。窓から差し込む光に赤い髪はなお赤く燃え、青い瞳は晴れた海のように鮮やかだ。
肩までの髪を後ろで結えただけの簡単な髪型だが、それでもなおエルケは魅力的な女性だった。
「ああ、すまん。なんだか…夢見が悪くてな。」
「ふむ…。悪夢は不運の予兆と聞くぞ。」
エルケの横にはハロンが座っている。
4人掛けのテーブルに設置された椅子は3つ。残った席は必然的にエルケの正面となった。面接のような居心地の悪さを覚えるが、それは「私」の居心地の悪さだろう。
「少し魔力をやろうか。」
この世界では、一般人に魔力を分けることは回復を意味する。
それも魔道士か勇者の資格を持っていないと出来ないことの一つで、医療行為の代替えだ。
「私」のいた世界とは違い、ここには医者と線引きされる者はいない。
魔道士という大きな括りの中で、人体に精通したものがその病を治す魔法をかけるのだ。
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