0人が本棚に入れています
本棚に追加
朝、一番最初に感じたのは匂いの違和感だった。
そして下半身。
「あ、あれ…?」
発した声はしゃがれ、低くなっている。
下半身は感じたことのない窮屈さと、熱を感じた。
布団は今まで寝ていたベッドとは違い、広い。
「何、これ」
私は自分自身の変化と、環境の変化に戸惑いを隠せなかった。
指は成人男性の太さや大きさで、下腹部も恐る恐る覗き込んで確認するとそこにはしっかりとしたモノがあった。
落ち着け、落ち着けと冷静を保とうとする。
ベッドから起き上がり、部屋を見回した。自分の顔を確認するものが欲しかった。
部屋の隅に壁掛けの鏡があった。
… … …。
聞き慣れたアラーム音に叩き起こされ、そこで目が覚めた。
全ては夢だったのだ。
立派なナニも、ごつごつした手指もなく、見慣れた自分の指と部屋だった。
寝る前に転生ものの本を読むから、そんな不思議な夢を見るのだ。
私はいつも通りに支度を始めた。
寝癖をなおし、香水を振りかける。気温が上がってきたから、柑橘系が不快感を和らげてくれるだろう。
会社用のカバンとゴミを持って外に出た時、本当の異変が起きた。
自分の玄関から先はまるで崖崩れでも起きたように欠落し、欠落した先は深淵の闇が広がっていた。
そこに、落ちた。
緩やかに、しかししっかりと内臓が遊走する感覚を感じる。
ジェットコースターの落下の、あの感覚。
不思議と怖くはなかったが、ぼんやりと考えていたことがある。
もしもこれが夢ならば…私がまだ夢の中だったならば。
目が覚めたら、しばらく有給を使って休もうということだった。
最初のコメントを投稿しよう!