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モーヴの住むジュハの森は他の集落からは孤立している村だった。
四方は山森に囲まれ、その山にはかなり強力な魔物が出るため、比較的珍しい「常駐魔道士・勇者」がそれぞれ一名づついる。
彼らの仕事は、もっぱら森に入る一般人の警護である。
他の勇者とは違い、決められた区画に魔物が出た場合は退治にも出かけるが、二人が手に負えない場合は皇国から派遣された勇者か、冒険の道中に立ち寄った強者たちに依頼することもある。
モーヴも家具を作るために森に入る時、必ずどちらかについて来てもらっていた。
とりわけ、勇者のエルケとは仲が良かった。
エルケは女であるが、そのことを忘れさせるほどさっぱりしている。
赤い髪で魔力属性を判断されがちだが、彼女の分類は水属性だ。
そして、瞳は透けるような綺麗な青色をしている。
魔力属性は瞳の色に現れるため、生まれてすぐに魔力を持つかどうかの判定が出来た。なんの属性を持たないものはブラウンや黒といった虹彩をもつ。
その日、モーヴは自分の姿を鏡で見ていた。
いつもと違う気がする。
体はこんなにがっしりしていたっけ。
もっと華奢で、そもそも女で、髪は長かったような。
「俺(ダ ミヌ)」
自分の一人称を口にする。そこにも違和感を覚える。
「私(ラ ミヌ)」
こっちだ。
私。わたし。口がはっきりと覚えている。
同じなのは瞳の色がブラウンだということ。
モーヴの記憶と、「私」の記憶がないまぜになる。
処理しきれない情報が、モーヴの感情まで掻き乱した。
「お前は、誰だ。」
『私は、』
モーヴと彼女の精神は、やがて溶け合ってひとつになった。
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