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プロローグ:嗚呼、憧れの異世界転生
最近流行りの「異世界転生」。
その恩恵に私もあやかりたいと思っていても、現実とは実に残酷だ。
私は現世に生きることに、少々ばかりの窮屈さを感じている。
こんな狭い部屋で家賃は月収の半分で、会社からの補助もない。
少し郊外へ引っ越したとしてもだ。
多少賃貸の値段は落ちるものの、地域ごとのゴミ出しや細かいルールを覚えるのは面倒だし、満員電車に長々揺られるのも、何度も乗り換えをするのも、そもそも初期費用が収入の3ヶ月分だなんてぼったくりもいいところである。
仕事は事務で単調、やり甲斐こそないが安定はしている。
給料は安い上、未曾有の流行り病のせいでその額も大幅に落ちていた。
かと言って浪費癖はないし、好きなことも特にはなかったが、外に出てウィンドウショッピングを…という機会も少なくなったような気がする。
それももう少しで落ち着いてくれるといいのだけれど。
地上波では様々なニュースがネガティブキャンペーンのように垂れ流され、私は映画か、読書、ゲームの世界へのめり込んでいった。
最近はどうやら自分がゲームや物語の主人公になってその世界のルールそのものになる「異世界転生モノ」が流行っているらしい。
嫌いではないが好きでもなかった。
ナニモノにもなれない自分が主人公を夢見たところで、物語を閉じれば目の前にはゴミ出しの曜日が書いてあるカレンダーが壁にかけてあるのだ。
明日は可燃ゴミの日。
私自身も捨てられたらいいのに。
大きな不満がないことが幸せだと思った。同時に不服だった。
私の成長と好奇心は、ここで終幕を迎えてしまったのだ。
読んでいた本を閉じ、ゴミをまとめる。
明日の朝、出勤時に出せばいいだろう。時刻は午後11時。
そろそろ眠りにつかないと、明日が辛くなる。
灯りを消して、私はベッドに潜り込んだ。
柔らかな布団の感覚に引き摺り込まれるように、私の意識は遠のいていった。
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