プロローグ:嗚呼、憧れの異世界転生

1/2
前へ
/7ページ
次へ

プロローグ:嗚呼、憧れの異世界転生

最近流行りの「異世界転生」。 その恩恵に私もあやかりたいと思っていても、現実とは実に残酷だ。 私は現世に生きることに、少々ばかりの窮屈さを感じている。 こんな狭い部屋で家賃は月収の半分で、会社からの補助もない。 少し郊外へ引っ越したとしてもだ。 多少賃貸の値段は落ちるものの、地域ごとのゴミ出しや細かいルールを覚えるのは面倒だし、満員電車に長々揺られるのも、何度も乗り換えをするのも、そもそも初期費用が収入の3ヶ月分だなんてぼったくりもいいところである。 仕事は事務で単調、やり甲斐こそないが安定はしている。 給料は安い上、未曾有の流行り病のせいでその額も大幅に落ちていた。 かと言って浪費癖はないし、好きなことも特にはなかったが、外に出てウィンドウショッピングを…という機会も少なくなったような気がする。 それももう少しで落ち着いてくれるといいのだけれど。 地上波では様々なニュースがネガティブキャンペーンのように垂れ流され、私は映画か、読書、ゲームの世界へのめり込んでいった。 最近はどうやら自分がゲームや物語の主人公になってその世界のルールそのものになる「異世界転生モノ」が流行っているらしい。 嫌いではないが好きでもなかった。 ナニモノにもなれない自分が主人公を夢見たところで、物語を閉じれば目の前にはゴミ出しの曜日が書いてあるカレンダーが壁にかけてあるのだ。 明日は可燃ゴミの日。 私自身も捨てられたらいいのに。 大きな不満がないことが幸せだと思った。同時に不服だった。 私の成長と好奇心は、ここで終幕を迎えてしまったのだ。 読んでいた本を閉じ、ゴミをまとめる。 明日の朝、出勤時に出せばいいだろう。時刻は午後11時。 そろそろ眠りにつかないと、明日が辛くなる。 灯りを消して、私はベッドに潜り込んだ。 柔らかな布団の感覚に引き摺り込まれるように、私の意識は遠のいていった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加