許してあげるよ

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許してあげるよ

大雪だった春先。雪に埋もれた花壇には跳ねる白い猫。窓越しから見た小さな猫は雪を被ったのか真っ白で翡翠の瞳にピンクの鼻だった。ひょんひょんと跳ねて何処かへ消えていった。 野良猫に餌をあげる行為の賛否はあるだろうけれど、美猫にほだされたシングルファザーな料理長が裏口で黄昏ながらやるのはドラマチックかもしれない。でも責任は問いたい。美猫と餌に誘われて野良猫野郎もワンサカ現れ、オーナーが激怒するまで1ヶ月もかからなかった。 あんときの猫か。 可愛い猫でしたよねぇ。 野良の貫禄だな。白の多い三毛か。 あのときの猫ですよぅ。 捕獲された美猫は怒り狂っていた。ちっとも人慣れしてなかった。思い返せば料理長は餌皿にあげてはいたが彼のそばで食べてるのを見たことはなかった。 ホントにほんとうに本当なのよ。ワタクシ貴女が三毛柄でも白雪姫みたいだと思ったわ。あの雪の色に紛れていた猫さん。こうなるって知ってた。知ってたの。でも、だから、貴女を手放したかったわ。だってワタクシきっと貴女に依存してしまう。ワタクシの生きてく理由にしてしまう。刹那で生きていけなくさせる枷になるとわかってたわ。 鏡よ鏡、世界で1番美しいのはだあれ? それは白雪(シロコ)。 そうなの!そうなの!シロコさんは世界で1番美しいの。愛しいの。ワタクシの世界を導くの。 だから。 ねえシロコさん。 どうしてワタクシを 連れて行って おいていかないで そばにいて 長く生きて いなくならないで ああでもどうせ 貴女をおいて逝けやしない。 ワタクシを縫いとめる楔だったわ。 そんな風に生きていたら地道な暮らしに慣れたわ。年齢を重ねたからかもしれないし。 グレイが逝ってデメが逝って シロコさんがズミをワタクシに押しつけて居なくなって。 ひどいわシロコさん。 長く目を離したら逝ってしまう猫をワタクシに遺すなんてあなたたち結託してるんでしょ。自棄にもなれやしない。 ズミが手がかかるの知ってたんだからひどいわ。 でも許してあげる。 ずいぶん久しぶりにズミは穏やかだわ。 トイレで汚れたりしないわね。 一昨日なんて3回も洗ったのに不思議よね。 だから許してあげる。 お帰りなさいシロコさん。 グレイもデメもお帰りなさい。 不安定なズミが満足げだから許してあげる。 全部ぜんぶ許すから、明日が来てもそばにいてくれないかなぁ。 ねぇシロコさん。 ワタクシ泣いてしまうの。 心がもう 貴女が居ないことを認めようとしてるの。 なんてひどい現実なんだろう。 貴女が居ないことをワタクシは仕方ないって想い始めて泣いてるの。
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