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マグロ祭り開催
にーちゃ、にーちゃー!!にーーちゃーー!!
喉を鳴らして声を張り上げてデメが覗き池の畔からかけてきた。止まるつもりのない全力アタックにどーん!とぶつかってついでにそら兄を巻き込んで3匹でごろごろ転がる。そら兄が最初にくるっと半ひねりで着地して、すすすっとデメから距離をとった。俺の背中におんぶの体制で落ち着くことにしたらしいデメに潰されたままで俺もいったん落ち着く。そら兄は四つ足でちんまりと座って、グレイはいいこだね、って首をこてりと傾げ俺らをみつめてた。
ねーぇー!にーちゃ、にーちゃ、お魚食べに行こーう!
ぐぅぐぅと喉を鳴らしあむあむと俺の肩を甘噛みするデメの金茶色の長い尻尾が背中越しにゆらゆら揺れる。
魚、さかなかぁ。俺が最後に食ったのは秋刀魚の刺身だ。明日には死ぬかなって気がしてた。無理やり食った。呑み込めなくて口から出ちゃってさ、味わうってだけだった。ぷっ。あん時のネーチャンのびっくりした顔。俺が食いもん吐くなんて信じられないってポカンと口開けっ放しでまぬけだった。俺もびっくりだったからわかるよ。すげー食いたいのに、食えなかたんだ。何回も口に運んだけど、呑み込めなかったなぁ。ネーチャン、そろそろ秋刀魚お供えしてくれ。あれから一度もネーチャンは秋刀魚を食わない。ネーチャンが食わないから俺も食えない。もういいじゃん。秋刀魚食おうよ。魚売り場で泣くのやめなよ。俺が悪いみたいじゃん。
にーちゃ、マグロだよー、タケズミずるいー。
あぐあぐと肩口を咥えてひっぱるデメのせいで俺の自前の毛皮はよだれでベタベタだ。デメをひっつけたままのそっと立ち上がる。ずるずると背中から滑るデメが必死に首にしがみついて、にーちゃーぁとよだれを垂らしたまま笑う。
タケズミずるいのー。マグロ食べてるのよー。ずるいー。食べたいよー。
白毛並みにキジトラが垂れ目模様のそら兄はちんまり座ったまままた首を傾けて、行っといでよ、とおっとり話す。
デメちゃんが餓鬼になっちゃう。行ってきなよ。
とすん、と向かいに座ってデメをふりおとす。にーちゃんも行こーぜ、と俺はゴツンと額を合わせた。そら兄もゴツンと合わせてすぅっと灰緑の瞳を細める。そら兄のアルカイックでおっとりとした表情はちびの頃からよくわからない。遠くを見てるその瞳の向こうは晴れた日みたいだってアンチャンが思ったからそら兄は“そら”って名前になった。そんで今も遠くを見てる。
『ボクは秋桜をみてたいんだ。』
そっか。
俺のカゾクはネーチャンだけど、そら兄のカゾクはネーチャンじゃない。でもなぁ、にーちゃん。ネーチャンはそら兄の欠片も大事に祀ってんだ。気が向いたら一緒に行こーな。
にーちゃんのカゾクだったアンチャンのとこには俺らの弟のちゃちゃが居る。そんでアンチャンの新しいカゾクの赤ん坊は神様の采配ってやつがあった。そら兄はその赤ん坊、秋桜を見守るのが好きなんだ。好きなことをするのが猫だからいいんだ。
にーちゃあ、まぐろぉ、と泣き声になってきたデメの首根っこ咥えぶらさげて歩き出す。かーちゃん探してからだ。もうちょい待っとけって。
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