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かーちゃん、かーちゃん、マグロだってー!マグロ!行こーぜ!ネーチャンが待ってる!
いつもの雲溜まりのふかふかに埋もれて箱膳を組んで眠るかーちゃんはピクリとヒゲを震わせた。そんで片目でキロリと俺らを眺めてふんってそっぽをむく。
なんだよー。行かないのかよー。かーちゃんはちょっと前にトロお供えされてたもんなー。わけてくれなかったよなー。
にーちゃ、にーちゃあ、まぐろー、行こうよー。ほらぁ、みてー、みてよぅ。
虹の橋のたもとまでかけてはもどりを繰り返して誘うデメに、じゃあなかーちゃん、と俺も駆け出す。駆けてくる俺を認めてまたデメも先を駆けた。
レンジで加熱したマグロをほぐして皿に盛ってあるのにタケズミはギャーギャー鳴くばっかりだ。だめだよネーチャン。あいつ見えてないんだって。すっかり耄碌した下っ端猫はガリガリに痩せてカクカクと全てが覚束ない。ネーチャンは指先でマグロをつまんでギャーギャー喚く口元に当てて、ニャーと口を開けたところに慣れた調子で突っ込んだ。
うんまいなー。よかったなー。食え食え。
美味しいでしょー。ほらお皿からお食べ。
俺とネーチャンは、うまうまと食いつくタケズミにやれやれと笑った。皿に鼻から突っ込んで、食いついては顔を上げ半分は口から零しちまう。皿の周りに食い散らかして鼻の上から顎の下までツナをベタベタにくっつけて、覚束ない足取りで右へ右へとふらついて一周りしてベッドから遠のいていく。見失ったベッドを探して壁まで行って今度は左足から左足で左回りに一周り半でドアに向かう。まーったく!見てられたもんじゃない。ツナになっちまったマグロを食べ尽くすデメも気になるけど、かーちゃんのとこに生のマグロがあがってたよな。階下は犬がいるからデメは近づかない。だからかーちゃんのアレは俺のぶんだ。方向と目的を見失うタケズミに、ネーチャンは手を出すか迷ってる。
トイレかな?それともベッド?単に縄張り確認?
違うよ、ネーチャン。アイツ、忘れてる俺らを探してんだ。忘れてるくせに居たのはわかってんだぜ。ばかだね。
水皿に足を突っ込んで不愉快だと鳴くタケズミの脇について支えてやる。ついでに鼻も口元も舐めてやる。また水に突っ込んだ足を肩で押しやればこんどはちゃんと床に足を着いた。そんでベッドに腰掛けるネーチャンの足元までぐいぐい押し出した。
んにゃぁん、と甘え声で、あんまり開かなくなってきた目を開けるタケズミをひょいとネーチャンは抱き上げる。そんな泣きそうな顔すんなって。うまいもん食えて寝床があって襲われない。ついでに撫でてくれる手があってさぁ。間違いなく幸せなんだ。そんな顔すんなよ。これだからネーチャンはよくないね。死ぬことにこだわりすぎだよ。坊さんもなんかそんなこと言ってだろ。それにほら俺らはいつだって好きなように傍に居てやれる。わかってんのに贅沢言うなって。俺らとネーチャンの繋がりはそれで十分だろ。
食べ尽くして満足したデメがタケズミを毛繕う。俺は階段を降りて台所に向かう。階段下で待ってた手下を一瞥すると、ぶんぶんとフォーンな尻尾が揺れた。そんで。台所の手前で見慣れた黒斑に赤茶色のキレイな尾が見えた。俺と翡翠色の目を合わせたかーちゃんは祭壇からひらりと飛び降り手下の鼻っ柱を当たり前に通り魔的に引っかいて、ベロリと舌なめずりした。
俺のマグロ、、かーちゃん、、俺のマグロ!!
俺は渾身の猫パンチを手下に振って階段を駆け上がる。ネーチャン!ネーチャン!俺にもマグロ!俺にもマグロー!マグロー!!
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