夢現

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夢現

生後半年で、ここからは余生だね、と宣告されてしまった白猫のタケズミの片足が明らかに天に踏み出してから3年が過ぎた。猫の年齢が人の4倍と考えたら、行こか戻ろかを干支一周くりかえしたわけだ。ひょっとしたらこっちに残ってるのが片足なのかも知れない。 明日をも知れないタケズミは、いついなくなっても不思議は無い雰囲気のまま仔猫の勝手さで猫家族達(3匹の猫)に面倒をかけながらふくふくと13年を飄々と生きながらえた。 はは。まさかあんたが一番長生きするなんて思いもしなかった。 だけどこれでなきゃ、ワタクシはどうかしてしまったかも知れない。 ねぇシロコさん。 頬にひやりと湿りを感じて浅い眠りから浮上すると、フスフスと鼻を鳴らすシロコさんのふわふわの白い毛並みがあった。 あれシロコさん。手を伸ばしてむにとその頬を抓むとグルグルと聞こえる。あれぇ。抓む指先の弾力と温かさがリアルだわ。むにむにむにむにむに なぉん!! わわシロコさんだ!ごめんなさい。ごめんよぅ。どしたの。あれ。シロコさん?あれ?シロコさん? じろりと翡翠の瞳に見下ろされ伸ばしたままの指先をスルリと交わしてフンフンと枕に広がるワタクシの髪の匂いを嗅ぐ。シロコさんは洗い髪が好きだった。わざと乾かさないで寝ると湿った髪に頭を突っ込んでくるの。それが可愛くて嬉しくて。 グルグルグルグル。 そうシロコさん。 ご機嫌になるのよね。それでそんなだからシロコさんはいつだってワタクシのリンスの香りがしてフローラルだったわ。いつも良い匂いのする美猫なの。あれ。なんでワタクシ髪が濡れてるのかしら。でもシロコさんが喜んでるからいいわ。 ねぇシロコさん。 お刺身買ってきたの。またたびもあるのよ。生クリームのケーキもあるの。あとねヒマワリの種もあるのよ。祭壇に、あれ、そうだ、シロコさんの祭壇があるのにシロコさんは なぉん? ねぇシロコさん、あなた、わわ痛っ んなーんなーぉ、ぐぅるなぁん? かぷカプっと頬骨の上を甘噛みされびっくりする。そうだ、油断するとすぐ噛むのよ。なによう、なにが不満なの。噛まないでー。起きたらいいの?お腹空いたのね。お刺身食べる?リビングに犬も居るけど一緒に降りる? トンと軽やかにベッドを降りて立てた尻尾をゆらゆらと揺らしツンと先に部屋を出ていく。床に転がっていたタケズミがその足に絡んでじゃれつく。 あれズミ、あんたひっくりかえって遊ぶのずいぶん久しぶりじゃ、 トンタタタと駆けてシロコさんの前に先回りしてドスンとまたひっくり返りで両前足で宙をかく。シロコさんに偶然当たったフリをして、当たっちゃったから、遊んでよぅの仔猫のフリにパシンとシロコさんの尻尾が床のタケズミを叩き仕方なそうにじゃらしあやしする。 ふふシロコさんったら。 あおん?うにゃーぉう!にゃうん? 階段下で三白眼のグレイが喚く。ああ、もう、おやつの時間なのね。 はいはい、ちょっとまってて。 おやつ?おやつなんてあったかしら。だってもうズミはウェットだってなんとかやっとこだしチュールも食べれない日だって にあ゛ ドスンとキャットタワーのてっぺんから金茶色の固まりが落ちて、いや降りて、ワタクシを見上げ必死に目を合わせようとしている。零れそうなほど大きなまんまるの金色の目を見開いてデメが濁った声で短く鳴いた。 はいはい、ちょっとまってて。 カリカリの入ったビン。グレイが片手で横にしたビンを押さえて片手でフタを回して開けちゃうから出しておけなくなって、引き出しにしまってたんだったわ。 ふふ。グレイが開けてもデメが横取りするのよね。フタが開くのをじぃっと待ってるの。開いて零れた瞬間に奪うの。そういえばデメったら餌皿に手を突っ込んで引き寄せたりしてたわね。君たちはホントに食い気ばっかりね。 はいはい、あげるわよぅ、ほらこっち、はいどうぞー。 はいシロコさんはこっちでゆっくり食べてね。 ちがっ、ひいきじゃ、ひいきじゃないのよう、ほらだってシロコさんは、ちがうの、グレイとデメが早く食べちゃうから、とられちゃうから、ね。そういうことよ。恨めしそうに睨まないでよ、もう。あらズミはどこ?食いっぱぐれちゃ にゃぁぁぁぁあ!! あら来たわね、はいどうぞー。ふふ。ズミったら今日はヨタヨタしないのね。それに貴方なんだかふっくらしてるわ。まるでみんながまだ ああ こんばんはシロコさん。 お帰りなさいシロコさん。 あいたかったぁ。あいたかったよ。
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