第二章 初めての夜

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 少し歩き駐車場へ行くと、玄馬は幸樹をヴァイパーに乗せた。 「大きな車。九丈さん、お金持ちなんですね」 「いや、まだまだ」  あおぞら商店街の再開発が決まれば、さらに巨額の金が玄馬の懐に転がり込む。  さらに金持ちに、なれる。  玄馬は、幸樹をまだそのための駒の一つとしか思っていなかった。  うまく手なずけ、遠山の店を我が物にしようと考えていた。  だがしかし。 「幸樹くん。君は、どこか良家のご子息か何かかい?」 「いいえ。そんな話は聞いていませんけど」  高級ホテルのフレンチを、粗相ひとつせず堂々と食す幸樹に、玄馬は驚いていた。 「でも、母が。亡くなった母が、作法は一通り教えてくれました」 「そう。お父さんは?」 「父は、知りません」  そうか、と玄馬はうなずいた。 「もしかして、そのお父さんが高貴な方かもしれないね」 「僕、一度でいいからお会いしたいんですけど」  生まれてこの方、父に会ったことがない。  そんな幸樹を、玄馬は不憫に思った。
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