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少し歩き駐車場へ行くと、玄馬は幸樹をヴァイパーに乗せた。
「大きな車。九丈さん、お金持ちなんですね」
「いや、まだまだ」
あおぞら商店街の再開発が決まれば、さらに巨額の金が玄馬の懐に転がり込む。
さらに金持ちに、なれる。
玄馬は、幸樹をまだそのための駒の一つとしか思っていなかった。
うまく手なずけ、遠山の店を我が物にしようと考えていた。
だがしかし。
「幸樹くん。君は、どこか良家のご子息か何かかい?」
「いいえ。そんな話は聞いていませんけど」
高級ホテルのフレンチを、粗相ひとつせず堂々と食す幸樹に、玄馬は驚いていた。
「でも、母が。亡くなった母が、作法は一通り教えてくれました」
「そう。お父さんは?」
「父は、知りません」
そうか、と玄馬はうなずいた。
「もしかして、そのお父さんが高貴な方かもしれないね」
「僕、一度でいいからお会いしたいんですけど」
生まれてこの方、父に会ったことがない。
そんな幸樹を、玄馬は不憫に思った。
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