#001 ケバブサンド

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 いつものようにみなとスーパーの障害者用駐車スペースに車を停めて、車椅子に移乗する。  出入り口の自動ドアを抜けると、すっかり顔見知りになった品出しのおばちゃんがいた。 「いらっしゃいませ」  おばちゃんは手元でばら売り野菜の品出しをしたまま、顔だけこちらに向けてあいさつをしてくれた。器用な人だ。俺もあいさつを返す。 「こんにちは」  おばちゃんが手際よく並べるじゃがいもやにんじんにも目を奪われたが、今日はキャベツの千切りだ。俺は自分で細かい千切りをする自信がなかったので、あらかじめカットされたものを買うつもりでいた。  車椅子を進めて、サラダ用のカット野菜の売り場に向かう。大根サラダや玉ねぎサラダなどいろいろな種類が並べられているが、俺の目当てである千切りキャベツは少し高い位置にあった。手が届かなかったので、俺はおばちゃんを探す。  相変わらずばら売り野菜の一角で品出しをしていたおばちゃんだったが、すぐに視線を合わせてくれて、こちらに来てくれた。もしかして、それとなく俺の動向をうかがっていたのか。さりげない優しさが嬉しかった。  千切りキャベツを取ってもらった俺は、お礼を言った。 「ありがとう。次はちゃんと新鮮な野菜を買うからね」 「いつも頑張ってんだから、息抜きも必要よ」  普段俺が料理をしていることを知っているおばちゃんにそう言われると、素直に嬉しい。  まだ買うものはたくさんある。俺は野菜売り場を離れて加工肉売り場を目指した。加工肉売り場でかごに入れたのは、サラダチキン。  この前俺たちが食べたケバブサンドに入っていたのは鶏肉だった。俺はあのつるされている塊からそぎ落とす独特な方法をどう再現するかで悩んでいた。そこでいきついたのがサラダチキン。ほぐして炒めたら何とかなるだろう。俺が選んだのは、プレーンタイプだ。  次はスパイス売り場。ずらりと並んだスパイスを順に調べていく。 「あ、あった」  意外とすぐに見つかった。赤いふたのチリパウダー。  最後はピタパン。ここにきて不安になる。もし売っていなかったら……。売っていたとしても、どこに置いてあるのか皆目見当もつかない。  パンと名前に入っているからパン売り場? いやそんなことはない。パン売り場はしょっちゅう行くが、そこで見たことはない。  ピタパンはきっと穀物でできているだろうから、小麦粉などが売っている場所? とりあえずそこへ向かった。  最悪、みなとスーパーで見つからなければネットで調べて自分で作ることになるのか……。そんなふうに思いながら向かったさまざまな粉が置いてある一角にはなかった。  やはり自分で作るか。だが、あの入れ物みたいな形はどうやって作ればいいのか。前にナンを作ったことはあるが、あれはまだ形が単純だったので作りやすかった。 「ナンって、俺、ここで見たことあるわ……」  ひらめいた。ナンを買うか作るかで俺は迷ったことがあった。その時、俺は確かにここでナンを見ている。同じ粉からできた製品だ。ピタパンもそこにあるかもしれない。  期待を込めて、俺はチルドのピザなどの売り場に車椅子を進める。  ピザが並べられた棚から少し視線を上げると、前に買おうかと迷ったナンがあった。その隣にはトルティーヤ、そしてそのさらに隣には。 「ピタパン!」  俺はピタパンを手に取ってしげしげと見つめた。丸く成形された生地の中心には点線が入っていて、そこで半分に割って使うようだった。こんな複雑なものは到底自分では作れないと思う。ここにあってよかった。  満足した俺は、ほかに自分の昼ご飯などを買って帰った。
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