#001 ケバブサンド

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 香織さんからの帰るコールを受けて、俺は仕上げに取りかかる。仕上げといっても、サラダチキンを炒めるだけだ。副菜のジャーマンポテトはあらかじめ作っておいたし、昨日の残りのきんぴらごぼうは冷蔵庫に待機させている。汁物の味噌汁は温め直すだけだ。ちなみに、ケバブサンドときんぴらごぼうや味噌汁が合わないという批判は受けつけない。というか、香織さんは全く気にしない。  まずはドレッシングを作る。計量カップにマヨネーズとケチャップを入れて混ぜ、ちょうどきれいなピンク色になるように調整する。そのことに根拠はなかったが、この前食べたケバブサンドにかかっていたドレッシングがピンク色だったので、真似をしてみた。そして、チリパウダーを振り入れた。味見をしてみたところ、もう少し振ってもよさそうだったので少しずつ加えた。ちょうどよいところでそれはいったん置く。  次にフライパンにオリーブオイルを熱し、ほぐしたサラダチキンを投入する。オリーブオイルをなじませると、カレー粉を振った。香織さんがカレー好きなため、カレー粉は我が家の生活必需品だ。そして、焼肉のたれで味つけをする。緊張しながら味見をしてみた。 「よし」  思わず笑みがこぼれた。悦に入っている暇はない。俺はピタパンを半分に割って、トースターで温めた。  焦げない程度に熱々にしたピタパンに、いよいよ具材を挟んでいく。  キッチンカーのものを食べた時、底の方のキャベツにまでドレッシングがいき渡っていないのが唯一の不満点だった。だから、俺は少しキャベツを挟んではドレッシングをかけて、またキャベツにドレッシングというふうに工夫した。  そしてカレー粉と焼肉のたれで味つけをしたサラダチキンをこれでもかと盛る。さらに追いドレッシング。  だが、ここで悲劇に見舞われた。皿に置いた時に、ケバブサンドから派手に具材がこぼれてしまったのだ。映えも何もない残念な代物を前に、俺は泣きそうになる。  幸い、ケバブサンドはもうひとつ作る必要がある。さっきの失敗作は俺が食べたらいい。俺は、中に挟む量を調整しつつ、もうひとつ作った。
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