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「あたし、そっちがいい」
「何で? これは失敗してるし」
帰宅した香織さんは、意外にも俺が最初に作って盛大にこぼれてしまっているケバブサンドが食べたいと言った。
「だって、そっちの方がいっぱい入っていて、いかにも美味しそうじゃない。『はみ出しサンド』って感じで」
「何だよ、それ」
そう言いつつも、俺は嬉しかった。やはり俺も具材がたくさん入っている方が嬉しいし、何より見た目にこだわらない香織さんの気持ちが。
「ちょっと待ってて」
俺は残していた具材を、はみ出していない方に無理やり挟んだ。あらかじめ挟んでいたキャベツとチキンの上に、さらなるキャベツとチキン。間にドレッシングがたっぷり入ったスペシャルだ。皿には置かずに、香織さんに直接手渡しする。
「きっとこれの方が美味しい」
「うん、美味しそう。いただきます」
香織さんががぶりとかぶりつくのを、俺は見守った。
口の両端にドレッシングやチキンの切れ端をくっつけた香織さんが満面の笑みを浮かべる。
「さすが真也くん。この前食べたのより、ずっと美味しい」
ほっとした俺も、さっき香織さんが言っていた「はみ出しサンド」を手でつかんで頬張った。なるほど、ドレッシングや味つけしたチキンを単体で味見した時よりも、ずっと美味しい。
キッチンカーのものを再現できているかそうでないかを問われれば、きっと素人が作ったにしては及第点という評価がいいところだろう。だが、俺なりには十分に美味しいと思うし、何よりこの前よりもずっと楽しい。
「真也くん、ソースついてる」
「香織さんだって」
ふたりして口の周りにいろいろなものをくっつけながらケバブサンドを頬張るというこの状況が、何よりも俺たちにとっては幸せだった。
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