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雷の音というより、映画でよく聞く銃声に近かった。
私たちのすぐ近くの、このあたりの何かに向かって、落ちた。確実に。
「あ……」
あまりの爆音に腰が抜けた。地面についた膝を、由希子さんから受け取ったビニール傘で支えながら立て直す。心臓が胸から飛び出しそうなくらい、強く波打っている。
「な……那智、降りてきて。危ない。ほんと、死ぬから」
滴が一滴、頬に落ちてきた。それを自覚するやいなや、瞬く間に空から大粒の雨が降ってくる。
「……あうの?」
また那智が何かを言った。素直に声を張ったようだったが、それは激しく地面を叩く雨の音にかき消されてしまった。
「ごめん! 聞こえない!」
力の限り叫ぶ。雨よけにかざした手の隙間から、那智の姿を仰ぎ見る。
私を見下ろす大きな瞳。無垢な愛らしさの中に、どこか儚げな、掴んだ瞬間に消えてしまいそうな光が、宿ったような気がして。
「あっ――」
綺麗だ。
そう思ったものが、降ってくるから。
私は無意識に手を伸ばしていた。壊れないように。
「……付き合うの?」
雨より音もなく舞い降りて。
「付き合うの? 鈴木先輩と」
那智はそのまま、私を強く抱き締めた。
「つっ……!」
細いけど、男の子の身体だ。硬くて、でもハリがあって、熱い。いつの間にこんなに大きくなったんだろう。いつだって高いところで、無邪気に笑っているくせに。
「つ、付き合わないっ、よ!」
心臓がうるさい。突き放そうにも、震えて力が出ない。抗える気がしない。雨が、どんどん私たちに染み込んでくる。
「なんで? 鈴木先輩、かっこいいのに」
「かっ、こいいかもしんないけどっ」
わたしは、鈴木先輩にどう返事をしたらいいのかわからなかった。嬉しかった、とは思う。人気者の先輩が他の可愛い女子たちを差し置いて、わたしを好きになってくれたことが。
「なんで?」
さっきまで聴覚を遮断していた雨の音が、今では逆に、那智の声を増幅して響かせる。
「なんでって……」
なんでだろ。なんで今、先輩とは付き合えないって思ったんだろ。
考えようとすればするほど、頭が混乱していく。
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