序章

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序章

■1話 「はぁ・・・・・・退屈だわ。」  ため息を盛らし私は窓の外をそっと見下ろす。 昼下がり心地よい日差し、庭の花壇に咲いている色とりどりの花達が風に吹かれて揺れている 花壇を手入れしている庭師達をちらりと眺めながら、私はまた、ため息をついた。  私の名前はアリス、好きな物は本を読む事と庭を散歩することくらいかな、 といっても実はこれしか私にとっても娯楽がないから 私の家はちょっと有名な貴族の家、父様が貴族でありながら様々な事業を手掛けている 簡単に言えばお金持ちの貴族様というわけなのだ。  だからと言って私が裕福な暮らしをしているかというと実はそうではない 勿論、身の回り衣服や食事、生活環境は裕福だなとは思うそれこそ貴族だなとわかるくらいには ただ唯一、外に出ることだけ父様は許してくれないのだ。 「外で遊びたいなんて言っても、父様にまた怒られるだけよね」  私はこの屋敷という名の檻から出られない。 私自身の意見など決して通されない、私の父は本当に人の心がわからないのだ。  泣いたり、怒ったりとどんなに懇願しても、父様には響かない 私っていったい何なの?  小さい頃からずっと思っていた、この前やっと父様に打ち明け、返ってきた言葉は 「お前はただ、私の通りにし、私の決めた婚約者と結婚し、我が家のために動けばいい」  結局、私は父様にとって家族という概念ではないと初めて分かった。 飼い鳥だから籠から出ることを許されず、籠の中でただいい子にさえずっていればいいのだろう。  所詮只の・・・・・・そう思った時、憎さと悔しいさでその日は一日中泣いていた。 その日を境に何度も脱出をしてみたけど毎回捕まってしまって  今じゃ逃げ出さ無いように外から鍵までかける始末、 このまま一生この屋敷にいて父様の決めた婚約者と結婚するのかと思うと悲しかった。 「一度でいいから物語のような素敵な世界へ行ってみたいものだわ」 私がぽつりと呟くと同時にノックの音が響いた。 「お嬢様、アリスお嬢様?入りますよ?」 「いいわよ、どうしたの?メアリー?」  メアリーはこの屋敷で働いている侍女、優しくて私にとっては姉のような存在だ、 私はドアの近くまで近づくと外から鍵を空ける音が聞こえメアリーが挨拶をしながら入ってきた。  黒い髪で綺麗な赤い目をした女性がにこりと笑顔を見せる 彼女の後ろ廊下にはいくつか掃除用具がつまれたワゴンが見える。 「お嬢様、今日は書庫の掃除の日なんです。宜しければ、私が掃除している間に何冊か本持っていかれますか?毎日、稽古ばかりでは気がめいってしまいますし。」 「え、あれ? もう、そんな日だったの・・・・・・? 確か一昨日で今週の書庫掃除は終わりって・・・・・・。」  屋敷の書庫はかなり大きく週に1度の頻度で掃除が行われている 私は疑問に思いながらメアリーに言うとメアリーはにこりと微笑み、 突然、父様が書庫掃除頼んだらしいと訳を説明してくれた。  でも、あの父様が?と心の中で思ったけど、やっぱり本誘惑に負け。 「なら行くわ!退屈してたから!」  私は笑顔で答えると、メアリーと一緒に書庫に向かった この書庫は元々父様の仕事関係の本が多くあるそんな書庫で物語の本を探すのは一苦労なのだ。  一応私向けの本として物語の本も何度も追加されて行ってるけどほぼ読破していったものが多い 最近では事典や図鑑なども読んでいる色んな地方、国にある文化やそこにある動植物を見ると やっぱり外に出たいなとその都度思うのだけど・・・・・・。  そんなことを思っていると下手すると父様にばれて本を処分されてしまうかもしれない 私にとってこの書庫は唯一の外の世界を感じる癒しの場所なのだ。  書庫に入り私が本を物色し始める、喜々として選んでいる私を見て メアリーは微笑むと、とてきぱきと掃除をし始めた。  ちらりと彼女の仕事しているところを見て、相変わらず仕事が早くてすごいなぁと感心してしまった。 さて、自分も気になる本を探そうかと意気込むと色々な本棚を見て回る 出来れば何冊か持って帰りたいなと思っていると、 ドサッ  突然近くの本棚から本が落ちてきた。 危うく頭に当たるところだったと驚くと、拾い上げ本棚戻そうと見上げるとおかしなことに気が付く。 「あれ、あの棚から落ちてきたはずなのに・・・・・・スペースが無い?」  落ちてきた本が入るようなスペースが一つも見当たらないのだ むしろ、きっちりと入っているから10㎝ほどある厚さのこの本が入るはずが無い。  本棚の上にでも置いてあったのだろうか?それだったらメアリーが気が付くはずだがと思った。 「いったい、この本何なのかしら?」  疑問に思いながらも私は落ちてきた本をみた、 全体的に黒い本だが浮出し加工で植物のようなきれいな柄がついている。  しかし所々ボロくなっているため角あたりはすれている、本の名前部分は文字が擦れて読めなくなっているがかろうじて数字の7が読める程度。 「一体なんなのこの本?」  ゆっくりと本を開いて見ると中は案外きれいなのだが真っ白で何も書かれていない 誰かの日記かなぁと思いながら何枚かめくっていくが、何も書かれていないページが何枚も続いていく ふと、次のページをめくろうとした瞬間チリッと火に触れるように熱い感覚を感じた。 「熱ッ!?」 私は思わず本を落としてしまったが落ちた衝撃で次のページにめくれた。 「あ・・・・・・このページだけ文字が書いてある」  私は落ちた本を拾う、そのページにはいくつか文字がかかれていた まるで読み手に話し掛けてきたかのような文字だった。 【私の名前はアイニ】 【あなたは誰?】 【猫は好き?蛇は好き?】 【君は○○○は好き?】  まるで質問を受けているような気分になる文章、 最後の方は文字部分が黒くにじんでしまって何が好きなのかわからなかった、 この本の作者一体何のために書いたのだろうか?  そう思いながらページの下を見ると。 【私に会いたいなら夜に火を灯し、このページをちぎって燃やしてごらん】  そう書かれていた、 一体何かしらと疑問再びと思いながら考えていると。 「お嬢様ー?そろそろ帰りますよ?」  遠くでメアリーが私を読んでいる 私は慌ててその本を閉じると、メアリーの元へ走っていった。 「メアリー、もう、掃除終わったの?早くないかしら?」 「なに言ってるんですかお嬢様。 もう、夕方になりますよ? それに、ちゃーんと掃除してましたし、お嬢様の前、何回か通り過ぎたんですけど、気が付かなかったみたいですね」  メアリーは苦笑しながら掃除用具達をのせたワゴンを出入り口まで運んで行っていく その様子を見て、窓を見ると確かに夕焼けのきれいな空が見える。  たった数分の出来事だと思っていたのにと余計に驚いてしまった。 「あれ、そうだったの? ごめんなさい気が付かなかったわ・・・・・・!」 私も、苦笑するとメアリーは大丈夫ですよと優しく言ってくれた。 「今日はその本を持って帰るんですね?」  メアリーはそう言って私の持っている黒い本を指差した、私は本に視線を落とす 何だかんだで気になり持ってきてしまったこの本 また、私はぼーっと考えていると、メアリーが微笑む。 「さぁ、もう少しで夕食になると思いますし帰りましょうか。」 「えっ? あ、うん!分かったわ!」 私はそう言いながらメアリーと一緒に書庫をあとにした。
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