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2章【剣王領 ツァーカブ】
■1話 初めての悪魔の国
導きの森を抜けると目の前に広がったのは、なんとも美しい景色だった。
綺麗な青空と木々や田畑の緑に囲まれそびえ立つ白亜の壁、森からだいぶ離れているとはいえかなり大きい壁だ、あまりの大きさで反対側が見えないということは相当大きな国なんだろう、森の出口から続く道の先には大きな門が見える、そして入国待ちの商人のような人々の列が見える。
アイニが言っていたように確かにこのツァーカブは治安はかなり良いようだ、田畑が見えると言うことは外に出て農作物を育てる余裕がある。
「わぁ・・・・・・本当に大きな国ね! それにとっても綺麗な景色!」
「そうだろ? この国は魔界でも屈指の城郭都市だからな、さぁ入国するためにまずは門まで行こうか道すがら色々ここの事説明するからさ」
アイニがそういうとこの国ツァーカブ、そしてその主について歩きながら説明してくれた。
ここの主、剣王はとても立派な方で遥か昔は神で人間の人々に崇められていたという、とある理由で神の座から降り悪魔となってしまったがそこでも実力は確かなもので一気に魔界でも屈指の実力者になっていったという。
その際、とある人物に召喚されそれ以降その人物が亡くなるまで彼の側近として働いていたため彼が亡くなった後、魔界に戻った時にその知識を使い国を建設したという。
周りには田畑や酪農もあり、魔界各国から商人がやってきては商売をしている。
基本的にこのツァーカブは人間の国によく似た国だそうだ。
力の弱い悪魔や商人達を守るために戦力はしっかりとしており、国内や国境周辺には定期的に兵士たちが巡回し、近隣や侵入者が来ないか見張っていたりと抜かりなく仕事をしている。
今もここの治安が安定しているのは剣王の実力があってこそだが、王は他の力のある悪魔とも同盟や協力関係を構築して行っており、それは神々にも及ぶほど活動を広げているそうだ。
人脈が多ければ多いほど何かと便利だ、という側近で体験したことを生かしているらしいが本当にすごい人なんだと実感してしまった。
むしろしっかりしすぎて私の世界よりもしっかりした国ではないかと思ってしまった。
「本当にすごい人なんだね・・・・・・剣王様って」
「あぁ他の悪魔も一目置いてるし、俺でさえあんな人にはなれないけど憧れるわって思うぜ」
ツァーカブに続く道を進んでいくと、道中所々に岩のような人口的に加工されたものが見える。
石像なのだろうか?いや、むしろ昔屋敷の書庫で見た遺跡関係の本に載っていた石碑に似ており文字やイラストのようなものが描かれている。
気になったのでアイニに聞いてみるとこれがその安心できるものの一つなのだという。
これも魔道具の一種で、これには魔術で加工されており侵入者や他の敵意を持った者を捉えたり逆に防御壁として使う物なのだという、ツァーカブの全域に点在しているためどこからきても大丈夫なようにしているそうだ。
しばらく歩き続けると入門待ちの列に近づいてきた、その時私は自分がまだアイニと手を繋いでいたことを思い出し思わずアイニに手を離すように頼んだ。
もちろん、恥ずかしいからだ、わけを話してさらに懇願するとアイニは不満そうにしながら手を離してくれた。
***
入門待ちの列の最後尾に着くと私は前に並んでいる商人達を見てみた。
皆意外と荷物は少なくおそらく収納箱を使って商品を運んでいるのだろう、良くみるとこの近辺の住人なのだろうか作物を積んでいる荷馬車も見える。
商人達は近くで見ると人のような者もいればアイニのように動物の耳や尻尾、角や羽の生えたもの、外見もだいぶ違うものもいる。
きょろきょろと見渡しているのに気がついたのか、目の前の商人達がこっちを振り返ってきた。
緑の肌に大きな体、性別は多分男性だろう尖った耳にギザギザの歯、これはもしかしたらよく物語に出てくるゴブリンなのだろうか、いや大きいのでホブゴブリンあたりなのだろうかと思っているとその男はこちらを見るとニヤリと笑いゲラゲラと笑い出した。
「おっとぉ? コイツは驚いたな人間じゃねぇか! しかも女だ!!」
思った以上に大きな声、私は思わず耳を塞いでしまった。
男の大きな声にその前にいる商人や悪魔達が次々にこちらを見ている。
ざわざわと声がする、耳を塞いでしまったのでうまくどんなことを喋っているかわからなかったがどうやら人間であること魔力が少ない女の子だなどと聞こえた気がした。
「ガハハハ!! コイツはいいぜ滅多にお目にかかれない貴重な品じゃねぇか! なぁお嬢ちゃんちょっとーーーー」
男が私の手を掴もうと手を伸ばした瞬間、隣から物凄い殺気を感じた。
男は手をピタリと止める、そして、みるみるうちにさっきまで不気味に笑っていた顔が青ざめていく、私は恐る恐る隣を見ようとするとアイニが私の視界の前を遮った。
顔は後ろ姿のためもちろん見えないが、微かに獣が唸るような声が聞こえる、アイニに気がついたのか男以外の商人や悪魔がさらに慌ただしく騒ぎ出した。
「お、おい! あれは放火魔じゃないか!?」
「放火魔って・・・・・・もしかして72柱の!?」
「間違いない! あの耳と鱗!!!! ヒィィ!!」
商人達がどんどんと騒ぎ出している中、アイニは右手をあげ指をパチンと鳴らすと、何もない空中から火の玉が出てきた、それを見た男はさらに悲鳴をあげる。
「わ、わわわわ悪かった!!! まさかアイニ様のお連れ様だとは知らなく・・・・・・!! ヒィ! どうか命だけは!!!!」
男が大きく声をあげ、アイニが指で火の玉を動かそうとした時だった。
高い警笛の音が聞こえたかと思うと武装した兵士達がこちらに向かってくる。
兵士達を見たアイニは舌打ちをすると火の玉をサッと消し去った、それを見た男は安堵の息を漏らした。
「何事ですか!」
「いや! 兵士さんこれはだな・・・・・・!」
やって来た兵士達に慌てた様子の男、それを怪しんだ兵士の一人がこちらを向いて何か気がつい他のかサッと敬礼をする。
それを見た他の兵士達も次々に敬礼をし始めた、それを見たアイニは軽く手をあげた。
「これは、アイニ様! お勤めご苦労様です! 予定では昨日こちらに着くとお聞きしたのですが・・・・・・」
「あーちょっと森でトラブルがあってね、そこはこっちが報告するから心配しなくていい・・・・・・んだけど、とりあえずこのホブゴブリンしょっ引いてくんない? とりあえず未遂だけど拉致しようとしたんで」
どうやらホブゴブリンであっていたようだ、その男はまた悲鳴をあげ許してくださいと懇願していた。
それを見た兵士は私を見つつなるほどと声を漏らすと、残りの兵士達に男を連行する様に指示を出した。
男は勘弁してくれ、助けてくれなどと声を上げながら兵士達に連行されていった。
「申し訳ありませんアイニ様、あの男は十分調べたのちに処罰させて頂きます、お連れ様もお怪我はありませんでしたか?」
「あ、はい大丈夫です」
あまりの怒涛の出来事に反応がだいぶ遅れてしまったが、よくよく考えてみるとあれは拉致をしようとしていたのかと思い、後々になってしまったが震えがではじめた。
「とりあえず、入門してもいいか? 一目に着くってのもあるけど彼女を安全な場所に連れて行きたいんだけど」
「! 申し訳ございません。 はい大丈夫ですどうぞ入門なさってください」
アイニと兵士は私の震えに気がついたのかすぐに行動を移してくれた。
列から離れるとアイニは私の手を優しく握るとそのまま足速にツァーカブの門を抜けた。
時々商人達の目線を感じたがアイニや兵士のおかげでそこまで強くは感じなかった
***
ツァーカブに入国すると兵士は門横に隣接する建物に案内してくれた。
どうやらそこで馬車を呼んでくるので待ってほしいとのことだった、先程のこともあり注目は浴びてしまうかもしれないが安全なアイニの住んでいる屋敷まで行くにはこれが一番いいのだとアイニも言っていた。
兵士が馬車を呼びに出て行くと私とアイニは椅子に座りながら待っていた。
まだ、手は微かに震えている昨日もジャバウォックの毒に侵された森を見たと言うのに、まさかこっちの方が怖かったなんてと思いながら私は震える手を見ていた。
その時、優しくアイニが私の手を握った。
「ごめんなアリス、もっと早く対処するべきだった君を守ると約束したのに・・・・・・」
アイニの耳を見ると垂れ下がっている、後悔したしょんぼりとした顔。
「いいえ、私は望んでこの魔界に来たんだから本当は私の方が危機感を持つべきだったのごめんなさい・・・・・・」
アイニとは契約関係とはいえまだ2日しかたっていないのに、かなり面倒を見てもらっている気がする、今もそうだが私が不安になるのを察してかよく手を繋いだり声をかけたりと本当に感謝しきれないくらいだ。
それが悪魔だから契約だからなのかもしれないが私にとってはとても心強かった。
「とりあえず、馬車に乗って屋敷に着いたらゆっくり出来るからそれまでもうちょっとの辛抱、疲れたと思うけど大丈夫か?」
私は大丈夫だと答えるとアイニはそうかと優しく笑いかけてくれた。
その時、ドアをノックする音が聞こえると先程の兵士が入ってきた、アイニに少し早急に確認したい事があると言ってきた、アイニは分かったと答え私にひと声かけると兵士の方へ行った。
会話はよく聞き取れないが先程の件についてのようだった、私がぼーっとしていると突然近くからゲコとカエルの鳴き声がした。
びっくりして近くを見ると窓際に真っ黒なカエルがいる。
よく見ると真っ黒ではあるが目の縁や手は青紫のような色も見える、アマガエルよりもちょっと大きいようだ、不思議と怪しい感じはしないので気になって近づいてみた。
カエルは私の方に気がつくと、まだゲコと鳴き声をあげるどうやらこちらを警戒していないようだ、のんびりとした顔に思わず私は微笑んでしまった。
「魔界のカエルなのかしら? 可愛い・・・・・・」
住んでいた屋敷でもアマガエルや、もっと大きなカエルはみたことはあるがこんなにのんびりとした顔で警戒もしていないカエルは珍しい、もしかしたら毒があるかもしれないのでさわれないがその表情にすっかり癒されてしまった。
「アリス、お待たせ馬車ももうついてるから行こう・・・・・・」
アイニが声をかけてきたのでその方向を見ると、アイニがびっくりした顔をしている
何をそんなに驚いたのだろうかと小首を傾げているとアイニはハッとすると慌てて、私を馬車に連れて行こうと引っ張った。
「わっ! ちょ、ちょっと待ってすぐ行くから!」
私も慌てて行こうとした瞬間だった、カエルがまたゲコと鳴き声をあげるとぴょんとアイニの顔に張り付いたのだ
アイニはさらに驚いて声をあげるとそのまま張り付いたカエルを持ち上げてカエルに向かって喋り出した、声はボソボソと喋っていて何を言っているのかわからない。
私と兵士がそのやりとりに呆気に取られているとアイニは気がついてさぁ行こうかと私と一緒に建物を出た。
呼んできた馬車に乗り兵士に別れを告げると私とアイニを乗せた馬車は動き出した。
乗る前にも気にはしていたが落ち着いたデザインではあるが高級そうな馬車だ、中もしっかりと作られ椅子もふかふかしている。
貴族向けの馬車なのだろうかと思っていると前に座っているアイニを見た。
持ち上げていたカエルはいつの間にかアイニの頭にちょこんと座り、ケロケロと小さく鳴いているアイニはなんともいえない表情をしながらそれを耐えている。
「アイニ、気になって仕方ないから聞くのだけど、そのカエルは一体なんなの?」
「・・・・・・・・・・・・こ、これからいく俺の住んでる屋敷に住み着いてるカエルだよ・・・・・・ま、まさかあんな場所にいるとは俺も思ってなかったなぁハハハ」
妙に落ち着きのない声色でアイニはそういった、それを聞いたカエルはまたゲコと鳴き声をあげた。
馬車の窓から外を見るとツァーカブの街並みが見える、街並みは西洋の古い街並みに近いだろうか移動しながらなので詳しく見ることはできないが、それでも人混みが多いことだけはわかる、老若男女色んな悪魔や妖精のようなものが見え、買い物をしたり談笑したりと私の世界の街となんら変わらないように見えた。
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