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「おや、珍しい。今日はひとりか?」
洗い場を目指して歩いていると、後ろから呼び止められた。声をかけてきたのは、部隊長さま。ジェラルドさまを毎朝起こすように私に頼んできた張本人だ。
「ジェラルドさまでしたら、おそらく朝食を召し上がっているところかと」
「あの寝坊助を、毎朝起こしてもらって申し訳ない。我々もいつも助かっている」
「部隊長さまからは、ノックをした段階でジェラルドさまが起きていなければ、蹴り飛ばしてもいいと言われていますからね」
「蹴り飛ばして起きるなら、安いものだ。ジェラルドの手綱を握ることができるのは、あなたくらいだろう。長い付き合いだと聞いた。失礼だが、結婚式はいつ頃になるのだろうか?」
「まったく、ご冗談ばかり。ただの腐れ縁ですよ。私は、ずいぶん昔にジェラルドさまに振られておりますから」
唖然とする部隊長さまに向かってころころと笑ってみせれば、背後で何かがひっくり返るような大きな音がした。振り返ろうとしても、手元のシーツが邪魔でよく見えない。
「あら、何か落ちましたか? 壊れていないといいのですが」
「……あれはもともとどこか壊れているようなポンコツだから、気にする必要はない。気になるようなら念のため、こちらで確認しておく。ところでその荷物だが、わたしが運ぼう」
「いいえ、洗い場までもう少しですし、お構いなく。備品の状態を確認しておいていただくだけで、とても助かります。それでは失礼いたします」
一礼して、その場を離れる。
「私も大概未練がましいわね。シーツを自分で運ぶ理由を知られたら、寮内の出入りが禁止になるんじゃないかしら」
シーツの山を胸に抱えなおし、そのまま小さくため息をついた。
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